氏名

佐々木 馨

修了年度

2013年度(2014年1月提出)

修士論文題目

タイ語を母語とする日本語学習者における日本語漢字語の認知処理の発達

要旨

(500字以内)

 本研究は表音言語であるタイ語を母語とする日本語学習者における漢字語の処理ストラテジーが日本語の習熟度によって変化するか形態類似条件学と音韻類似条件の漢字語を用いて検討を行ったものである。
その結果、偽の漢字語についての誤答率と反応時間の分析では、全体として習熟度が上がることにより処理の正確さが増す様子がみられたものの、処理速度が速くなることはなかった。ところが、漢字語の条件別に分析を行った結果、音韻類似条件において習熟度が上がると偽の漢字語に対する反応時間が短くなったため、L2処理経験の増加によりL1の正字法で効率的だと考えられる音韻情報に依存した処理から、L2漢字で効率的と思われる形態情報を利用した処理ストラテジーへ変化するという、「L2処理経験効果」を支持する結果となった。
また、処理の自動化という観点から分析を行ったところ、習熟度が上がった学習者はL2単語処理においてその処理ストラテジーを再構築させ、自動化が起きていることが示された。

 したがって、タイ語を母語とする日本語学習者におけるL2日本語漢字語の処理は日本語の習熟度が上がることにより、より効果的な方法へストラテジーを発達させていると考えられる。

要旨

(1000字以内)

 本研究は表音言語であるタイ語を母語とする日本語学習者における漢字語の処理ストラテジーが日本語の習熟度によって変化するか検討を行ったものである。
 第二言語(以下L2)の単語認知についてはL2の処理経験の量がL2単語認知の効率性の多くの部分を説明できるという「L2処理経験効果」があるといわれているが、先行研究の中にはL2処理経験が豊富にあるはずの上級の学習者においてもL1の表記法の影響が単語処理にみられるという研究もあり、その効果はいまだ明らかにされているとは言い難い。そのため、本研究では日本語の漢字語を対象に形態類似条件(例:「文学」→「丈学」)、音韻類似条件(例:「一台」→「一大」)を用いて意味判断課題を行った。
 その結果、偽の漢字語についての誤答率と反応時間の分析では、全体として習熟度が上がることにより誤答率が下がり、処理の正確さが増す様子がみられたものの、処理が迅速になることはなく、誤答率についても反応時間についても習熟度と漢字語の条件による2要因分散分析における交互作用に有意差がみとめられないため、習熟度が上がることによって形態類似条件、音韻類似条件でそれぞれ異なる処理が行われるというわけでもないようである。ところが、漢字語の条件別に正しい漢字語に対する反応時間も踏まえて分析を行った結果、音韻類似条件では習熟度が上がると偽の漢字語に対する反応時間が有意傾向に短くなり、L2処理経験が増えると、L1の正字法で効率的だと考えられる音韻情報に依存した処理から、L2漢字で効率的と思われる形態情報を利用した処理ストラテジーへ変化するというL2処理経験効果を支持する結果となった。
 また、処理の自動化という観点から形態類似条件と音韻類似条件で呈示された漢字語についてその反応時間とcoefficient of variation RTとの相関関係について分析を行ったところ、習熟度が上がった学習者はL2単語処理においてその処理ストラテジーを再構築させ、自動化が起きていることが示された。

 したがって、タイ語を母語とする日本語学習者におけるL2日本語漢字語の処理は日本語の習熟度が上がることにより、より効果的な方法へストラテジーを発達させていると考えられる。
最終更新日 2014年3月24日