氏名

赤木 美香

修了年度

2013年度(2014年1月提出)

修士論文題目

日独バイリンガル生徒の日本語ナラティブの分かりやすさの検証 ―『時系列』『因果律』に焦点を当てて―

要旨

(500字以内)

 本研究は、出生時から二言語併用をしている日独バイリンガル生徒(言語形成期後半)を対象に、日独バイリンガル生徒の日本語ナラティブにおける分かりやすさに影響を及ぼす構成要素の特徴を明らかにすることを目的としたものである。南(2007)では、バイリンガル児童のナラティブには時系列型構成要素や、因果律型構成要素が出現することが示唆されている。また、それが、母語話者の分かりやすさにも影響を及ぼすと指摘されている。 

  そこで、2つの研究課題を設定して、聴取実験をし、談話分析を行った結果、課題1では、彼らのナラティブの分かりやすさにも、「因果律型構成要素」、「時系列型構成要素」が強く影響を及ぼしていることが推測統計により検証された。課題2では、「因果律型構成要素」、「時系列型構成要素」の特徴を明らかにした。課題2-1では、「展開部、発端部、解決部、終結部」のうち、展開部では時系列型発話率が高いという特徴が明らかとなった。課題2-2では、ナラティブ全体では因果の接続表現の出現率が高いという特徴も明らかとなった。従って、分かりやすさの形成要因は、「時系列で語りながらも、内容の理由付けが成され、結束性を高める因果律型構造を持つナラティブであること」が明らかとなった。

要旨

(1000字以内)

 本研究は、日独バイリンガル生徒(言語形成期後半)10?15歳のナラティブにおける分かりやすさに影響を及ぼす構成要素の特徴を明らかにすることを目的とした。先行研究、
南(2007)により、バイリンガル児童のナラティブには時系列型要素に加えて、因果律型要素が出現することが示唆され、それが母語話者の分かりやすさに影響を及ぼすと指摘されている。
 そこで本研究では、下記の研究課題を設定して実験・分析を行った。
課題1: 日独バイリンガル生徒のナラティブの「時系列型構成要素」、「因果律型構成要素」は、母語話者評定に影響を及ぼしているか。課題2: 「時系列型構成要素」、「因果律型構成要素」はどのような特徴をもつか。2-1.構成要素の発話数は分かりやすさに影響するか。2-2.構成要素の接続表現は分かりやすさに影響するか。 
研究方法は、南(2007)のFrog Story分析枠組みを援用して、日独バイリンガルのナラティブ聴取実験を行い、対象者20人に対して、相関分析、t検定を行った。南(2007)の「分かりやすさの評定規準」を用いて母語話者評定実験を行い、その評定値を指標とした。そして、それぞれの研究課題において統計的処理を施した上で分析を行った。
 その結果、課題1では、日独バイリンガル生徒のナラティブの分かりやすさには、因果律型構成要素、時系列型構成要素が強く影響を及ぼしていることが推計統計により検証された。課題2では、課題1で検証した構成要素の特徴を明らかにした。課題2-1では、「発端部、展開部、解決部、終結部」のうち、展開部で時系列型の発話率が高いと分かりやすいことが明らかとなった。課題2-2では、ナラティブ全体で因果型の接続表現の出現率が高いと分かりやすいことが明らかとなった。従って、日独バイリンガル生徒の分かりやすさの形成要因は、「物事の順を追って時系列で語りながらも、内容の理由説明や結束性を高める因果律型構造を持つナラティブであること」が明らかとなった。 

 このことから、語彙学習と同時に、時系列型や因果律型の構成要素を含むナラティブの構造を意識した学習が重要であることが示唆された。教育現場では、日独バイリンガル生徒がこれらの構成要素を含むナラティブを常に意識して産出できるよう、日独の両場面で支援・機能する談話構造を重視した授業や教材開発への応用に繋がると考えられる。

最終更新日 2014年3月24日