氏名

崔 娉

修了年度

2012年度(2013年1月提出)

修士論文題目

中国人日本語学習者における漢字語彙の意味推測

要旨

(500字以内)

 未知漢字語彙の意味推測に関する研究は非漢字圏出身の学習者を対象としたものが多い。本研究では、すでに漢字知識を持っている中国人日本語学習者(以下、CJL)はどのように意味推測を行うか、推測に用いる手がかりは漢字語彙のカテゴリーによって異なるか、またL2習熟度と関連があるかを検証するため、調査を行った。調査の結果、以下のようなことが明らかとなった。第1に、未知漢字語彙の意味推測に際して、L2習熟度の高低にかかわらずCJLは多数の情報を得られる場合、情報を統合して推測を行う。また、CJLに語彙に注意を向けず文脈のみで語彙の意味を理解しようとすることが観察され、この傾向はL2習熟度が低いCJLにおいて顕著である。第2に、語彙手がかりを利用する能力と文脈手がかりを利用する能力は別々の能力であり、L2習熟度に関係なくCJLはこの2つの能力を持っている。しかし、L2習熟度が高いほうが語彙手がかりと文脈手がかりを統合する能力が高いことが判明した。第3に、漢字語彙の推測をカテゴリー別に見ると、語彙と文脈の両方を与えられた場合、カテゴリーを問わずCJLは2種類の情報を組み合わせて推測することができる。一方、語彙そのものを無視し文脈のみで語彙の意味を推測することも見られた。この傾向はSame語において特に強く、Overlap語において最も弱いことが分かった。

要旨

(1000字以内)

 未知漢字語彙の意味推測に関する研究は非漢字圏出身の日本語学習者を対象とした研究が多い。しかしすでに漢字知識を持っている中国人日本語学習者(以下、CJL)は未知漢字語彙に遭遇した際に、どのように漢字知識や漢字語彙を取り巻く周囲の文脈を取り扱うかというCJLの手がかり使用についてはまだ解明されていない。日本語の漢字語彙を中国語との対応関係で4カテゴリー(Same語、Nothing語、Overlap語、Nothing語)に分類し、CJLにおけるそれぞれのカテゴリーの習得を見た研究では、Same語に関して母語から正の転移を受けるため習得されやすく、Overlap語に関して母語から負の転移を受け、かつ語彙の多義性により、習得されにくいと指摘された。そこで、本研究では未知漢字語彙の意味推測において、CJLはどのように推測を行うか、その推測は漢字語彙のカテゴリーによって異なるか、またL2習熟度と関連があるかを解明することを目的とした。
 調査を行い分析した結果、未知漢字語彙の意味推測に際して、L2習熟度の高低にかかわらずCJLは多数の情報を得られる場合、情報を統合して推測を行うことが明らかとなった。また、CJLに語彙に注意を向けず文脈のみを手がかりとし意味を理解しようとすることが観察され、この傾向はL2習熟度が低いCJLにおいて顕著である。つまり、CJLは得られる情報を組み合わせて利用するが、L2習熟度が高い学習者のほうが情報を統合する能力が高いということが示唆された。
 また、相関関係という観点からCJLの意味推測を見た結果、語彙手がかりを利用する能力と文脈手がかりを利用する能力は別々の能力であり、L2習熟度に関係なくCJLはこの2つの能力を持っている。しかし、語彙手がかりと文脈手がかりを統合する能力はL2習熟度によって異なり、L2習熟度が高いほど統合する能力が高いことが判明した。
 最後に漢字カテゴリー別にCJLの意味推測を見た結果、語彙と文脈の両方を与えられた場合、カテゴリーを問わずCJLは2種類の情報を組み合わせて推測することができる。一方、語彙そのものを無視し文脈のみで語彙の意味を推測することも見られた。この傾向はSame語において特に強く、Overlap語において最も弱いことが分かった。
 本研究の結果から、未知漢字語彙の意味推測においてCJLの手がかり使用の実態が明らかとなり、この実態をふまえてCJLへの読解に関するメタ認知ストラテジーの指導に示唆を与えられると言えよう。
最終更新日 2013年3月5日