氏名

ガルマーエヴァ オリガ

修了年度

2012年度(2013年1月提出)

修士論文題目

インプット処理における意味と形式への注意
―ロシア語母語話者日本語学習者の場合―

要旨

(500字以内)

 本稿では、インプット処理モデル(VanPatten, 1996; 2002)を理論的枠組みとして、実験研究を行った結果を報告する。このモデルによると、学習者はインプットを処理している際、形式よりも意味へ注意を向けるため、文法や機能語へ注意を向けないと言われている。本研究では、この考え方を実証するために、機能語への注意が内容理解を阻害するか、または内容語への注意が内容理解を阻害するかを実験的に調べた。
 ロシア語を母語とする日本語学習者を対象に、統制群・助数詞群・数字群を設定し、処理タスクと理解テストを行った。その結果、3つの群の間に有意な差は見られなかった。つまり、内容語である数字への注意は先行研究の通り、内容理解を阻害しなかったと分かった。また、機能語として設定した助数詞への注意が内容理解を害しなかったことについては、タスクのなじみ度と助数詞が担う意味性との観点から考察した。実証研究の対象項目として扱われる言語形式により、結果が異なることが分かった。

要旨

(1000字以内)

  現在の日本語教育では、コミュニケーション重視の授業が盛んになってきているが、このような授業の欠点として、学習者の文法学習が劣るということがよくあげられる。
 本研究は、第二言語習得過程において、文法の困難がなぜ起きるかを説明する理論を紹介し、その理論の実証を行い、日本語教育への示唆について検討する。
本研究では、VanPatten (1996)が提唱したインプット処理モデル"Input processing model"を理論的枠組みとしている。このモデルによると、学習者は第二言語のインプットを処理している際、認知資源の制限により特定の情報のみを処理するという。すなわち、コミュニケーションをしている中、学習者は形式より意味へ注意を向け、意味に関係ない文法や機能語への注意を同時に向けられない。それに伴い、文法はインプットの段階で処理できなかったため、脱落すると考えられる。本研究では、この考え方を実証するために、機能語への注意が内容理解を阻害するか、または内容語への注意が内容理解を阻害するかを実験的に調べた。
 本実験は2012年9月にロシアの国立大学2カ所で実施した。ロシア語を母語とする日本語学習者を対象に、統制群・助数詞群・数字群を設定し、処理タスクと理解テストを行った。その結果、3つの群の間に有意な差は見られなかった。つまり、内容語である数字への注意は内容理解を阻害しなかった。それは、先行研究の結果と合致している。なお、機能語として設定した助数詞への注意も内容理解を害しなかったが、先行研究の結果と矛盾すると分かった。それに関しては、タスクのなじみ度と助数詞が担う意味性との視点から考察した。実証研究の対象項目として扱われる言語形式により、結果が異なることが分かった。学習者が処理の際、注意を向ける程度の観点から、文法項目の分類が必要であると指摘した。
 インプット処理モデルに基づくインプット処理指導("processing instruction")の研究も盛んに行われている。つまり、このモデルは教育現場と密接に関係していることが分かる。インプット処理モデルが前提とする原点を実証する目的で行われた本研究は、わずかでも今後の日本語教育をはじめとする外国語教育への示唆を与えるのではないかと考えられる。
最終更新日 2013年3月5日