氏名 |
桃井 菜奈恵 |
修了年度 |
2012年度(2013年1月提出) |
修士論文題目 |
多様な言語背景を持つ子どもの教科学習支援の事例研究 ―教科学習支援のやりとりの分析を通して― |
要旨(500字以内) |
本研究では、言語の形成期において母語に加え複数の学習言語の交代の中で育つ複雑な言語背景をもつ子どもたちがsubtractive multilingualとなってしまう可能性を危惧し、彼らの「継続的な学び」の保障に焦点を当て、「第一学習言語(最も強い学習言語のことを便宜的にこう呼ぶ)」を活用した「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援の有効性を検討することを目的とした。 |
要旨(1000字以内) |
グローバル化によって世界的に人の移動が活発化した現在、この移動に伴う子どもの言語背景もますます複雑化してきた。複数の国の間での行き来の都度言語生活が変わる子どもたちは必然的に複数の言語の使い手として成長するが、移動先の学校における授業言語が国によって違う場合、学習言語(学校での授業言語)も複数持つことにならざるを得ない。彼らは言語の形成期において母語に加え複数の学習言語の交代の中で成長するという複雑なハンディキャップを抱えているといえる。さらに「日本語で教科学習ができるようになる」ことを目的とした日本の教育現場の受け入れ体制においては、それまで培ってきた言語能力・知識が十全に活かされないために、子どもにとっての「継続的な学び」の保障が阻まれ、持っているはずのどの言語も成長が中途半端なsubtractive multilingualとなってしまう可能性が危惧される。 そこで本研究では、複数の言語背景を持つ子どもの「継続的な学び」の保障に焦点を当てることとし、これまで言語少数派の子どもの「母語」を手がかりにその有効性が示されてきた「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援を子どもの「第一学習言語(最も強い学習言語のことを便宜的にこのように呼ぶ)」に応用した実践を行い、「第一学習言語」を活用する教科学習支援の有効性を検討することを目的とした。 この実践の対象者は、台湾語を母語としながら香港のインターナショナル校で9歳まで英語を第一学習言語として学習し、その後2010年3月より日本の地域小学校に編入(小学3年)したため新たに日本語を第二学習言語として学習するという複数の言語環境におかれた女子児童Rである。Rは来日後約2年半の間、継続的に当該モデルに基づく国語の教科学習支援に参加してきた。この研究で主に対象とした分析データは来日後2年目以降に当たる時期から約半年間にわたる第一学習言語での教科学習支援場面のやりとりの一部であり、このやりとりにおける第一学習言語活用の事例を詳細に記述・検討した。 分析の結果、Rは国語の教材文の英訳文を材料に第一言語を用いた教科学習支援を通して、・言葉をメタ的に捉え表現する、・母文化での既有の経験を活性化する、・対話的なやりとりを通して自己の意見を明確化する、などの学習活動に参加していたことがわかった。また自在に使える言語を用いた学習を行うことで、日本語だけでは理解できない抽象的な学習内容を理解し、教科内容について自己と結びつけながら能動的に学んでいたことが示され、英語を使うことによって、思考を深めながら自身のアイデンティティ形成を育てる学習活動に参加していることが明らかにされ、「第一学習言語」を用いた支援の有効性が示唆された。 |
最終更新日 2013年3月5日 |