氏名 |
スケンデル=リザトビッチ・マーヤ |
修了年度 |
2012年度(2013年1月提出) |
修士論文題目 |
道聞き場面における談話展開と聞き手の応答 ―母語場面と接触場面を比較して― |
要旨(500字以内) |
本研究では日常でよく遭遇する「道を聞く」場面を取り上げ、母語場面と接触場面の実態を明らかにするため、道聞き談話の談話展開と「道を聞く側」の応答を調べた。その結果、展開において「道を聞く側」の日本語母語話者(JNS )は道順説明が終わるまで確認要求や説明要求などの拡張をあまりせず、道順説明が終わった時点では、直接接談話終結に移る、あるいは問いや道順説明の繰り返しの拡張をする。接触場面の場合、道教え中核環境でも「道を聞く側」である日本語学習者(NNS)による「聞き返し」や問いという拡張が多く、道教え終了環境から談話終結に移る時、母語場面で見られなかった「道を教える側」による拡張が観察された。「道を聞く側」の応答において、母語場面の場合、「道を聞く側」であるJNSは道順説明を聞きながら、「ア系」あいづち詞と「繰り返し」によって理解を表明し、談話展開をコントロールしている。また、「あいづち的発話」の「重なり」によって会話に積極的に参加している。一方、接触場面の場合、NNSは「ア系」あいづち詞と「繰り返し」及び「繰り返し」の「重なり」以外の「重なり」が少なく、JNSのような談話展開の理解、コントロールや参加度を示さなかった。 |
要旨(1000字以内) |
本研究では日本語の会話教育への提言を行うために、日常でよく遭遇する「道を聞く」場面を取り上げ、母語場面と接触場面の道聞き談話のそれぞれの実態を明らかにすることを目的とし、道聞き談話の談話展開と「道を聞く側」の応答に着目し、比較分析を行った。分析資料となったのは同じ内容の母語場面12組と接触場面12組の自然会話である。 その結果、まず母語場面と接触場面にも関わらず、道聞き談話は道教え開始環境、道教え中核環境、道教え終了環境、談話終結環境という順序の展開を持つことが分かった。また、母語場面の場合、道教え中核環境では「道を聞く側」である日本語母語話者(JNS)による確認要求や説明要求などの拡張が少ないことが分かった。道教え終了環境では、直接接談話終結環境に移るパターン、あるいは「道を聞く側」による、問いや道順説明の繰り返しという形の拡張という2つのパターンが観察された。接触場面の場合、道教え中核環境に拡張がやや多く、また母語場面で見られなかった「聞き返し」が見られた。母語場面で見られた、道教え終了環境から談話終結環境に移る2つのパターン以外に、「道を教える側」によって開始された拡張というパターンも見られた。また、道教え終了の発話が分からなかったり、その発話に対して反応が遅かったりという談話展開の理解不足が観察された。 「道を聞く側」の応答に関しては、JNSの場合、「感声的表現」の種類が少なく、殆ど丁寧度の高い「はい」を使うことが分かった。また、道教えをただ聞いているのではなく、情報が十分に伝達されたことを示す「繰り返し」や「ア系」あいづち詞を使用し、会話の展開をコントロールしていると考えられる。なお、JNSは「あいづち的発話」の「重なり」が多く、会話に積極的に参加している、会話を一緒に作っていくという印象を与える。一方、「道を聞く側」である日本語学習者(NNS)の「感声的表現」にばらつきがあり、設定された場面にふさわしくないと思われる「ン系」あいづち詞の使用も見られた。JNSと異なり「繰り返し」と「ア系」あいづち詞が少なく、理解していることがはっきり示されていないと考えられる。また、「繰り返し」の「重なり」が多いのに対し、「感声的表現」の「重なり」が少ないことが明らかになった。「繰り返し」の場合、情報が出された直後に「繰り返し」をするのが容易であるため「重なり」が多いと思われるが、「感声的表現」の「重なり」の場合は違和感を覚える、あるいは「感声的表現」を打つタイミングが分からず、「道を教える側」のサインを待っているのではないかと考えられる。 |
最終更新日 2013年3月5日 |