氏名

公 平

修了年度

2012年度(2013年1月提出)

修士論文題目

持続可能性を追求する共生日本語教育実習における
日本語母語話者参加者の認識変容

要旨

(500字以内)

  本研究は、持続可能性を追求する共生日本語教育実習をフィールドとし、対話的問題提起学習における対話活動の参加者の認識変容を明らかにすることを目的とし、日本語非母語話者参加者と同じ学習者である日本語母語話者参加者は対話活動を通して認識がどのように変容したのかという研究課題を設定した。この研究課題の下に、日本語母語話者参加者、山下(仮名)の認識変容に着目し、中国人研修生とEPA看護師をはじめとする外国人看護師に対する認識の拡大と解釈される場面を取り上げ、グループ参加者の間でどのようなやりとりが展開されたのか、そのやりとりを通して、認識がどのように変わっていったかを記述し、分析した。
 分析の結果、対話活動の開始時点では、山下は自分の身近にいる中国人研修生に対して、「恵まれた生活を送っている研修生」「人手不足解消のために受け入れる研修生」「お金のために来ている研修生」といった三つの認識が見られた。そのような山下の認識は、対話する仲間同士で問題を共有したり、意見交換したりするグループでのやり取りを通して、社会レベル、また国レベルで問題を捉え直したことが観察された。さらに、日本に来る労働者をめぐる問題だけではなく、海外での移民問題と農民工問題にまで認識が広がり、「世界的な競争原理に組み込まれた労働者」という認識に到達したことが推察された。

要旨

(1000字以内)

  国際競争力が強調される現在、教育は即戦力の養成が中心になっている。言語教育においても、言語そのものの学習にこだわり、学習者は物事を批判的に考えることができず、生きている世界について、無知であり、急激な変動した社会に適応できない問題を抱える。 それに対し、岡崎(2009)はアクロス・カリキュラムを可能とする社会的場としての新たな「持続可能性日本語教育」を提唱する。このような考えの下で、共生日本語教育実習も持続可能性を追求するようになっている。
 本研究は、持続可能性を追求する共生日本語教育実習における参加者の認識変容を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、日本語非母語話者参加者と同じ学習者である日本語母語話者参加者一人に着目し、中国人研修生とEPA看護師をはじめとする外国人労働者に対する認識の拡大と解釈される場面を取り上げ、グループ参加者の間でどのようなやりとりが展開されたのか、そのようなやりとりを通して対象者の認識がどのように変わっていったのかを記述し、分析した。
 分析の結果、対象者は中国人研修生とEPA看護師をはじめとする外国人労働者に対する認識が個人レベルから社会レベル、国レベル、世界レベルへと拡大していることが分かった。具体的に、対話活動の開始時点では、対象者は自分の身近にいる中国人研修生に対して、「恵まれた生活を送っている研修生」、「人手不足解消のために受け入れる研修生」、「お金のために来ている研修生」といった三つの認識が見られた。そのような対象者の認識は、グループにおける対話活動が進むとともに、中国人研修生に対する認識が変わり、「母国で問題を抱えている研修生」、「雇用の調整弁として利用される研修生」、「安さを求める消費行動の結果生み出される研修生」と社会レベルで問題を捉えていることが観察された。また、中国人研修生と同じような参入側としてのEPA看護師に対し、「国のイメージのために利用されるEPA看護師」、「自己責任に帰されるEPA看護師」、「国の政策のもとにある出稼ぎのEPA看護師」といった三つの国レベルの認識が形成し、さらに、日本に来る労働者を巡る問題だけではなく、海外で起きている移民問題や中国で起こっている農民工問題などにまで認識が広がっており、それらがグローバル化の下で賃金抑制という一つの構造の中で起きている問題であるという認識に到達したことが推察された。また、対象者はただの参入側に問題があると指摘するだけではなく、自分たち受け入れ側にも反省が必要だという認識を持っていることが観察された。
最終更新日 2013年3月5日