氏名

後藤 美和子

修了年度

2012年度(2013年1月提出)

修士論文題目

持続可能性日本語教育を担う'同行者としての教師'の養成に関する事例研究−共生日本語教育を経験した実習生の1年後のふり返りから

要旨

(500字以内)

 近年、世界の広い範囲にわたって教育改革が起きている。その共通の特徴は、受動的で固定的な知識伝達型教育から主体的で協働的な教育への転換である。本研究では持続可能な生き方を追求する過程を学習者と共に歩む'同行者としての教師'の養成に示唆を得ることを目的とし、持続可能性をテーマとした共生日本語教育実習を経験した実習生Sが、それまでの被教授経験によって作られた自身の教師観を '同行者としての教師' に作り変えていく過程を調査した。
 研究課題1では、Sの1年後のふり返りからどのような同行者性が見られるかを探った。その結果、Sが同行者性を獲得する過程で「対立」の概念が変化していることがわかった。具体的には、「対立」は議論を前に進めるものではなく、「感情的な争い」であること、「自分が教師を務める教室で対立が起こるのは恥ずかしいこと」であり、「教師のコントロール力不足」が原因であるという概念が、1年後の「能動的自己認識」を経て捉え返され、「対立は自分の意見が言えること」「学習者の発言を予測する必要はない」「教師の円滑な対応より、学習者が自分の意見を出すことが大事」のように変化したことが分かった。
 研究課題2では、Sの同行者性が醸成された要因を探った結果、@テーマの設定、A多様な背景を持った参加者との対話、B実習生間の協働、C既有能力の発揮、D実習の目的の5点が見出された。

要旨

(1000字以内)

 近年、世界の広い範囲にわたって教育改革が起きている。その共通の特徴は、受動的で固定的な知識伝達型教育から主体的で協働的な教育への転換である。この動きに伴い教師の新しい役割が追求されてきた。日本語教育でもその役割が「教育する」→「支援する」→「共生する」という方向で変化するとともに、「共生日本語教育」や「持続可能性日本語教育」が提唱されてきた。岡崎(2008)は持続可能な生き方を追求する過程を学習者と共に歩む教師を'同行者としての教師'と呼び、教師の人間としての生き方と教師としての生き方を統合することがその出発点となるとした。しかし従来の「教える」或いは「支援する」教師から「ともに考える」教師へとパラダイムをシフトさせることは容易ではない。
 本研究では、持続可能性をテーマとした共生日本語教育実習を経験した実習生Sが、それまでの被教授経験により作られた自身の教師観を '同行者としての教師' に作り変えていく過程を明らかにし、'同行者としての教師'の養成に示唆を得ることを目的とした。
 研究課題1では、Sの1年後のふり返りからどのような同行者性が見られるかを探った。 その結果、Sが同行者性を獲得する過程で「対立」の概念が変化していることがわかった。具体的には、「対立」は議論を前に進めるものではなく、「感情的な争い」であること、「自分が教師を務める教室で対立が起こるのは恥ずかしいこと」であり、「教師のコントロール力不足」が原因であるという概念が、1年後の「能動的自己認識」を経て捉え返され、「対立は自分の意見が言えること」「学習者の発言を予測する必要はない」「教師の円滑な対応より、学習者が自分の意見を出すことが大事」のように変化したことが分かった。
 研究課題2では、Sの同行者性が醸成された要因を探った結果、@テーマの設定、A多様な背景を持った参加者との対話、B実習生間の協働、C既有能力の発揮、D実習の目的の5点が見出された。グローバル化社会で起こっている問題を、今、ここを生きる自分たちに引き付けて考えることで当事者性が生まれ、他者の姿を通して自分の人生を知ることで、自分がこれまで受けてきた教育をふり返るきっかけとなったことが窺えた。また、実習生間の協働で信頼関係が構築されたことにより、反対意見を言い出せるようになり、既有能力の発揮が可能になったと考えられる。最後に多様な背景を持つ参加者と共に考え、持続可能な生き方を見出そうとする実習の目的を追求する過程で、Sの人間活動と教師活動が一体化していったことが推察された。
最終更新日 2013年3月5日