氏名

趙 有珍

修了年度

2012年度(2013年1月提出)

修士論文題目

「母語による先行学習」を支える「支援者共同体」
―「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく 物語文の支援の場合―

要旨

(500字以内)

 本研究では「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく支援を行う「支援者共同体」における相互作用や協働とそれが言語少数派の子どもの学びをどのように支えていたかを探ることを目的とした。
 課題1では、「支援者共同体」における相互作用や協働を探るために、支援ミーティングにおける支援者間のやりとりを談話分析の手法を援用して分析した結果、支援者は母語をはじめとする既有能力を発揮しながらミーティングに参加し、子どもの理解・反応を受け止め、それに基づき支援における課題を設定し、手助けを模索していたことが分かった。
 課題2では、支援者の発言に支援ミーティングで行われた支援者間で話し合いがどのように反映されたかに注目し、分析した結果、母語支援場面における母語話者支援者の働きかけは支援ミーティングが基盤となっており、子どもは支援者とのやりとりを通して、物語文に対する理解を深めていた。
 以上のことから当モデルに基づく支援は形やルールがあるわけではなく「支援者共同体」における相互作用や協働によって組み立てられ、支援者一人一人が主体的な存在として参加していたと言えよう。言い換えると、母語話者支援者と日本語話者支援者の間が横の関係であることを示唆される。また、「支援者共同体」は一方的に支援を組み立てるのではなく、子どもと横の関係で一緒に物語文の意味世界の構築ができることを目指し、支援を行っていることが窺える。

要旨

(1000字以内)

  本研究では、日本における言語少数派の子どもを対象とする教科学習支援に示唆を得ることを目指し、この「支援者共同体」では@どのような相互作用や協働の下に学習支援が組み立てられ、それがA各支援場面において子どもの学びをどのように支えているかを探ることを目的とする。
 課題1では、「支援者共同体」における相互作用や協働を探るために、支援ミーティングにおける支援者間のやりとりを談話分析の手法を援用し、分析した結果、支援ミーティングにおいて支援者たちは支援中の子どもの理解・反応を受け止め、多方面からその理由を探り、物語文の学習における課題を設定し、手助けを模索していた。具体的には物語文の学習において内容に対する理解を深めた上で、子ども自身の考えを引き出す事を設定し、それを達成するために、具体的な手助けとして@物語文の主人公の状況を抽象的に捉える、A伏線に着目する、B子どもと異なる解釈を提示することを模索していたことが分かった。
 次に、課題2では、「支援者共同体」による相互作用や協働が一人の支援者に支援においてどのように実践され、子どもの学びを支えていたかを探った。そのため、支援者間の支援ミーティングの話し合いと母語支援場面における支援者の働きかけの関連性に着目し、分析を行った。その結果、母語による先行学習における母語話者支援者の働きかけは支援ミーティングにおける支援者間のやりとりが基盤となり、それによって子どもの物語文に対する理解が深まっていたことが分かった。このことから、母語による支援場面において支援者は母語話者支援者一人であるが、母語話者支援者の背後にはその支援を一緒に考えていた「支援者共同体」が存在していると言えよう。
 分析結果から次のことを考察した。「支援者共同体」は子どもと横の関係で一緒に物語文の意味世界の構築ができるように工夫をしていたことが分かる。また、そのような言語少数派の子どもの学びを支えるための支援の在り方に対する考え方は「支援者共同体」の支援者間の相互作用や協働を通して形成されていることが窺える。また、「支援者共同体」を通して支援者は言語少数派の子どもの継続的な学びのあり方を考え続けながら実践を重ねていくことでそれが支援者自身の学びにつながり、さらに子どもの学びを継続的に支えていく原動力になると思う。このように「支援者共同体」は言語少数派の子どもの継続的な学びの保障という課題に対して立ち向かうべき姿勢を示唆する。
最終更新日 2013年3月5日