氏名 |
脇川 友恵 |
修了年度 |
2011年度(2012年1月提出) |
修士論文題目 |
慣用句の構成が意味推測に与える影響 −母語と第二言語間の言語形式と概念の対応に着目して− |
要旨(500字以内) |
慣用句は(idiom)は、表面的な言語形式とその表現全体が持つ概念の対応関係が不透明であるため、第二言語(以下L2)学習における大きな障壁と言われている。本研究では、「学習者の母語(以下L1)との対応」「L2習熟度」という要因がその意味の推測の成功に影響を及ぼすか、質問紙調査を行い検証した。まず「L1との対応」という要因について、「言語形式が対応している表現がL1に存在しているかどうか」と「概念を共有している表現や文化がL1に存在しているかどうか」という観点から慣用句を4つに分類し意味推測をさせた結果、正答率は「形式○概念○」「形式×概念○」「形式○概念×」「形式×概念×」の順となり、各タイプ間に有意差が見られた。概念○の2タイプが概念×に比べて著しく正答率が高く、概念が意味推測の重要な手がかりとなることが示された。また、「L2習熟度」という要因ついて、習熟度の低い段階では、構成語をL1に置き換えL1の語の概念の中で全体の意味を解釈しようとするため概念のない項目の推測は困難を極めるが、習熟度が上がると、構成語をL2のまま理解し、その概念から全体の意味を想像し、L1の概念に制限されることなくより正確に意味推測を行えるようになる可能性が示唆された。 |
要旨(1000字以内) |
「頭が固い」「口が軽い」などの慣用句は(idiom)は、表面的な言語形式とその表現全体が持つ概念の対応関係が不透明であるため、第二言語(以下L2)学習における大きな障壁と言われている。先行研究では、学習者がL2慣用句を推測する際、構成語に着目し、それをL1に置き換えて理解しようとする傾向が報告されているため、慣用句のL1との対応関係が推測の成功に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、韓国の大学で日本語を学んでいる学習者を対象に、「学習者の母語(以下L1)との対応」「L2習熟度」という要因がその意味の推測の成功に影響を及ぼすか、質問紙調査を行い検証した。 質問紙では、「L1との対応」という要因について、「言語形式が対応している表現がL1に存在しているかどうか」と「概念を共有している表現や文化がL1に存在しているかどうか」という観点から慣用句を4つに分類し、それぞれ10項目ずつ意味推測をさせた。その結果、正答率は「形式○概念○」「形式×概念○」「形式○概念×」「形式×概念×」となり、各タイプ間に全て有意差が見られた。このことから、慣用句は「L1との対応」という要因によって、その意味推測の難しさが異なるということが明らかとなった。特に「概念○」の2タイプが「概念×」に比べて著しく正答率が高かったことから、概念が慣用句の意味推測における重要な手がかりとなることが示された。 また、「L2習熟度」という要因ついて、被験者を二群に分け慣用句のテスト得点を比較した結果、「形式○概念○」「形式○概念×」「形式×概念○」において有意な差が見られ、L2習熟度が慣用句の推測に影響を及ぼしていることが明らかとなった。また、下位群では「概念×」の2タイプにおいて有意な差はなかったが、上位群は「形式○概念×」のほうが「形式×概念×」よりも有意に推測が成功していた。このことから、習熟度の低い段階では、構成語をL1に置き換え、そのL1の語の概念の中で全体の意味を解釈しようとするため「概念×」の項目の推測は困難を極めるが、習熟度が上がると、構成語をL2のまま理解し、その概念から全体の意味を想像できるようになるため、L1の概念に制限されることなくより正確に意味推測を行えるようになる可能性が示唆された。 本研究では、慣用句の意味推測の困難について、注意が向けられやすい表面的な言語形式の構成だけでなく、慣用句の構成要素としての「概念」に着目して検証することにより、L1との対応関係が慣用句の意味的透明性に段階性を与えており、推測の難易を左右していることを実証することができた。 |
最終更新日 2012年11月10日 |