氏名

鄭 士玲

修了年度

2011年度(2012年1月提出)

修士論文題目

中日接触場面における「断り」の発話行為
−「依頼」に対する「断り」の「弁明」を中心に−

要旨

(500字以内)

 本研究では、接触場面の「断り」行動の談話データをもとに、会話参加者である日本語母語話者(以下JS)及び中国人学習者(以下CL)が、「断り」談話の中で用いられる弁明内容、依頼側の反応,「断り」談話がいかに展開されているのかを調べた。その結果、「弁明」内容の分類基準によって、自分のことによる弁明(A1)、相手のことによる弁明(A2)、第3の物事による弁明(A3)の三つの枠組みに分けた。両者がほぼ同じような割合でA1、A2、A3を使っているのが分かった。しかし、具体的な弁明内容を詳しく見ると、CLとJSが使っていた弁明内容には共通点もあれば、相違点もあった。それぞれ好まれる弁明内容も違っていた。依頼側の反応については、意味公式の組み合わせのパターンの観点から分析を試みた。CLとJSのA1類、A2類、A3類の弁明理由が同じ割合を使っているにもかかわらず、それに対する反応もCLとJSが違うパターンが出てきた。CLの弁明後、JSの反応は「承知」の意味公式が圧倒的に多かった。一方、JSの弁明後、CLの反応は特にJSのA1類の弁明に対しては「承知」の意を示した後によく「積極的再依頼」「追加確認」などの2、3種類以上の意味公式の組み合わせがほとんどであった。

要旨

(1000字以内)

 「断り」は社会文化や人間関係と深く関わっており、異文化間でのポライトネス・ストラテジーや「断り」パターンの相違は重大な誤解を引き起こす恐れのある言語行動である。また「弁明」は「断り」の中で非常に重要な要素であり、弁明の説得力、妥当性などがスムーズに「断り」を遂行できるかに大きく影響する西村(2007)。本研究では、接触場面の「断り」行動の談話データをもとに、会話参加者である日本語母語話者(以下JS)及び中国人学習者(以下CL)の実態を明確にすることを目的とし、どんな内容の弁明が「断り」談話の中で用いられるのかを調べた。更にその弁明がどのような反応を受け,談話の中でどのように機能し,「断り」という談話がいかに展開されているのかを分析した。研究課題は@接触場面におけるCLとJSの「弁明」の内容にどのような特徴が見られるか;A接触場面におけるCLとJSの「弁明」の内容に対し、依頼側の反応にどのような特徴が見られるかである。
 分析にはロールプレイデータを採用した。ロールプレイの内容は生生活で起こりうるものの依頼に対する「断り」の場面に「デジタルカメラの貸し出しの依頼」に設定した。日本の大学において同等関係のCLとJSによる全部60組のロールプレイデータを収集した。
 その結果、「弁明」内容の分類基準によって、自分のことによる弁明(A1)、相手のことによる弁明(A2)、第3の物事による弁明(A3)の三つの枠組みに分けた。まずは、接触場面1では、CLの使用回数はA1:6回、A2:1回、A3:23回である。接触場面2では、JSの使用回数は A1:10回、A2:0回、A3:20回である。両者がほぼ同じような割合でA1、A2、A3を使っているのが分かった。しかし、具体的な弁明内容を詳しく見ると、CLとJSが使っていた弁明内容には共通点もあれば、相違点もあった。それぞれ好まれる弁明内容も違っていた。依頼側の反応については、意味公式の組み合わせのパターンの観点から分析を試みた。CLとJSのA1類、A2類、A3類の弁明理由が同じ割合を使っているにもかかわらず、それに対する反応もCLとJSが違うパターンが出てきた。CLの弁明後、JSの反応は「承知」の意味公式が圧倒的に多かった。一方、JSの弁明後、CLの反応は特にJSのA1類の弁明に対しては「承知」の意を示した後によく「積極的再依頼」「追加確認」などの2、3種類以上の意味公式の組み合わせがほとんどであった。JSとCLが弁明の役割に対するもともと違う認識をもっているのではないかと考えている。
最終更新日 2012年11月10日