氏名 |
田中 詩子 |
修了年度 |
2011年度(2012年1月提出) |
修士論文題目 |
日本における日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティと 家庭生活環境、帰国体験との関連 |
要旨(500字以内) |
近年、日系ブラジル人生徒の滞日の長期化が顕著になってきている。しかし、複雑な文化的背景を持つ日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティに関しては、量的調査では検討されておらず、また、その形成要因に焦点を当てた研究も十分に行われているとは言い難い。そこで本研究では、日系ブラジル人中学生、高校生のエスニックアイデンティティとその形成要因を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施し、155名を対象に統計的分析を行った。主な結果として、エスニックアイデンティティは「ブラジル人的アイデンティティ」「統合アイデンティティ」「周辺化アイデンティティ」「日本人的アイデンティティ」の4因子構造であること、家庭生活環境は「家庭内ブラジル文化志向」「家庭内二文化共存志向」「交友のブラジル人志向」の3因子構造であり、帰国体験は「ブラジル模倣型」「共行動型」の2因子構造であることが示された。さらに、「家庭内ブラジル文化志向」は「日本人的アイデンティティ」に負の影響を与えていること、「交友のブラジル人志向」は「ブラジル人的アイデンティティ」「統合アイデンティティ」に正の影響を与えていること、「ブラジル模倣型」は「ブラジル人的アイデンティティ」に正の影響を与えていることが明らかになった。 |
要旨(1000字以内) |
1990年に「出入国管理及び難民認定法」の改正法が施行され、日系ブラジル人の来日が急増した。それに伴い、日系ブラジル人生徒の滞日の長期化が顕著になってきている。しかしながら、複雑な文化的背景を持つ日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティに関しては、量的調査では検討されておらず、また、その形成要因に焦点を当てた研究も十分に行われているとは言い難い。そこで本研究では、日系ブラジル人集住地域の中学校、高等学校に通う日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティとその形成要因を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施し、155名を対象に統計的分析を行った。 研究課題1では、日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティについて因子分析を行い、「ブラジル人的アイデンティティ」「統合アイデンティティ」「周辺化アイデンティティ」「日本人的アイデンティティ」の4因子が抽出された。研究課題2では、家庭生活環境について因子分析を行い、「家庭内ブラジル文化志向」「交友のブラジル人志向」「家庭内二文化共存志向」の3因子が抽出された。研究課題3では、帰国体験について因子分析を行い、「ブラジル模倣型」「共行動型」の2因子が抽出された。 研究課題4では、日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティに家庭生活環境、帰国体験および属性がどのような影響を与えているかを検討するため、重回帰分析を行い、以下の結果が得られた。@「ブラジル人的アイデンティティ」には、「家庭内ブラジル文化志向」であり、「交友のブラジル人志向」であること、「ブラジル模倣型」帰国体験であること、「来日年齢」が高いことが有意に影響を与えている。A「統合アイデンティティ」には、「交友のブラジル人志向」であり、「家庭内二文化共存志向」であること、「滞日年数」が長いことが有意に影響を与えている。B「日本人的アイデンティティ」には、「家庭内ブラジル文化志向」ではなく、「家庭内二文化共存志向」であること、「滞日年数」が長いことが有意に影響を与えている。 このように、日系ブラジル人生徒のエスニックアイデンティティ形成には、家庭生活環境、帰国体験および属性が影響を与えていることから、成長に伴う環境の変化により、生徒のエスニックアイデンティティは容易に変容することが考えられる。そのため、かれらが社会の中で「周辺化」することなく、自分のエスニックアイデンティティにプライドを持ち成長していけるよう、適切なサポートが必要となろう。つまり、日本人の視点ではなく、日系ブラジル人生徒の視点に立った支援体制づくりが重要であることが示唆された。 |
最終更新日 2012年11月10日 |