氏名

呉 孟チャン

修了年度

2011年度(2012年1月提出)

修士論文題目

台湾人大学院留学生の悩みと援助要請行動
−言語の可能性を中心に−

要旨

(500字以内)

 台湾人留学生はアジアの他国からの留学生と異なる性質を持ち、とりわけ留学前後における対日イメージの落差による不適応が推測される。また、大学院留学生は、学歴や母国での社会的地位が高かった人が多く、留学後の落差が彼らの自尊感情の低下に結びつき、悩みが生じやすい。さらに、援助する側と援助を受ける側が両方存在するにもかかわらず、今までの留学生援助は、留学生を受動的に捉える傾向があり、能動的に援助を要請する視点が欠けている。
そこで、本研究はこのような現状を踏まえ、留学生援助の一層充実に向けて、台湾人大学院留学生を対象 に彼らの研究生活における悩みと援助要請行動の関連を明らかにすることを目的とした。方法は、台湾人大学院留学生114名を対象に質問紙調査を行い、分析を行った。主な結果として、研究生活において「無気力感」という悩みを抱えておらず、「日本語力への不安」という悩みがあるものの、「日本語力」が高い台湾人大学院留学生は、「具体的問題解決型」といった援助要請行動を行うことが明らかになった。また、研究生活において「研究室への違和感」や「経済面の心配」を抱えている台湾人大学院留学生は、「共感志向型」といった援助要請行動を行う傾向があることが示された。  

要旨

(1000字以内)

 日本に留学する台湾人留学生はアジアの他国からの留学生と異なる性質を持ち、とりわけ留学前後における対日イメージの落差による不適応が推測される。また、留学生援助の領域については、留学生援助の実践報告や援助のあり方についての議論は展開されるようになったが、留学生が能動的にどのような援助を求めるかについての援助要請行動を焦点に当てた研究は十分に行われていない。つまり、援助する側と援助を受ける側が両方存在するにもかかわらず、今までの留学生援助は、留学生を受動的に捉える傾向がある。
 そこで、本研究はこのような現状を踏まえ、台湾人大学院留学生の研究生活における悩み、悩んだ時の解決への援助を求めるための援助要請行動はどのようなものかを解明し、さらに研究生活における悩みと援助要請行動の内容の関連を明らかにすることを目的とした。研究方法として、日本の各大学に在籍している台湾人大学院留学生114名を対象に質問紙調査を実施し、その結果を分析した。
研究課題1では、台湾人大学院留学生は研究生活における悩みを明らかにするため、因子分析を行った。その結果、「研究室における違和感」、「日本語力への不安」、「無気力感」、「研究遂行上の不安」、「経済面の心配」などの5因子が抽出された。
 研究課題2では、研究生活における悩みを解決するのに、周りの他者に行った援助要請行動の内容はどのようなものかを明らかにするため、因子分析を行った。その結果、「共感志向型」、「他者依存型」、「具体的問題解決型」、「不安解消型」、「他観点希求型」という5因子が抽出された。
研究課題3では、援助要請行動と台湾人大学院留学生の研究生活における悩み・属性との因果関係を明らかにするために、重回帰分析を行った。その結果、研究生活において「無気力感」という悩みを抱えておらず、「日本語力への不安」という悩みがあるものの、「日本語力」が高い台湾人大学院留学生は、「具体的問題解決型」といった援助要請行動を行うことが明らかになった。
 以上の結果から、台湾人大学院留学生にとって「日本語力への不安」は決して完全にマイナスなことではなく、日本語力も援助要請行動につながるのに重要なスキルである。つまり、留学生援助の一層の充実を目指すこととして、言語的援助要請スキルを向上させることの重要性を示唆した。
最終更新日 2012年11月10日