氏名

マフラコワ アレクサンドラ

修了年度

2011年度(2012年1月提出)

修士論文題目

ロシアにおける知識の構築を目指した文語クラスのデザイン
−書き換えタスクとグループワークに着目して−

要旨

(500字以内)

 本研究では、ロシアの大学で日本語を主専攻としている学生を対象とする文語クラスにおける言語生態環境の保全に向けて有効な示唆を得ることを目的とする。そのため、事前課題として課す書き換えタスク、教室内で行われるグループワーク、学生が自らの生きることと関連づけられるような文章の内容という三点から特徴付けられた文語授業の教室実践を行い、そこで、学習者の言語生態の保全が可能になるかを検証する。次のような研究課題を設定した。
  研究課題1:学習者は、グループワークのなかで知識をどのように構築しているか。
  研究課題2:学習者は、自分が生きることと教材の内容をどのように結びつけているか。
 その結果から、学生は書き換えタスクに取り組む中で得た疑問や調べた知識を仲間同士で共有し、協働的な知識構築を行うことで、新たな理解の誕生、更なる問題点の認識と探察が可能になることが分かる。また、歴史上の社会問題を鏡として現代社会を見て、自分が生きている社会に特化することを通して、自分が生きていることと文章の内容を結びつけ、自分を起点した理解を作っている。要するに、以上のような学習過程を通して、学習者の心理的領域における言語生態、社会的領域における言語生態の相互交渉が促され、学生の言語生態・人間生態の保全が可能になると言える。

要旨

(1000字以内)

 ロシアで日本語主専攻のカリキュラムでは、口頭日本語に加えて、書記言語を教わる文語クラスが設定されている大学が何ヶ所ある。授業の目標は、文語で書かれた文章の統語的な理解である。そのための授業は、主に教師による文法説明を軸に展開される。しかし、こうした目的と教授法において大きな課題があると思う。第一に、テキストの文がどのような要素から構成されているかという言語学的な分析を追求する場合には、文語は、他のどの言語とも同様に内実を伴う言葉であることが見逃される。つまり、前の時代に活躍していた人々のものの見方や考え方を知ることで、自らが生きている社会をより深く理解できる可能性が薄くなってきている。第二に、情報が教師一人の視点だけから提供されることから、学習者は周りにある多様なリソースを活用する能力を熟達させることができず、自分の問題を自覚することができない。この問題を解決するためには、社会文化的アプローチと言語生態学的アプローチ踏まえて、以下の三点から特徴づけられる文語授業の教室実践を構造した。第一に、書き換えタスクを事前課題として課すことで、学習者が自己の問題に自覚することを目指す。第二に、各自の事前課題の結果を持ち寄って教室内でグループワークを行うことで、学習者が互いのリソースを使い、異なる視点を知ることを目指す。第三に、「急速に変化を続ける現代にあたって、現在の自らの位置を確認する灯台でもある」(西辻2011)という古典に対する新たな見解をもとに、学習者が自らの生きることと関連づけられるような教材を選定する。研究課題を以下のように設定した。
  研究課題1:学習者は、グループワークのなかで知識をどのように構築しているか。
  研究課題2:学習者は、自分が生きることと教材の内容をどのように結びつけているか。
 それらの課題の分析から、書き換えタスクに取り組む中で得た疑問や調べた知識を仲間同士で共有することで、学習者はしっかりと活動に取り組み、〈検討−比較−明確化〉という一連の活動を通していわゆる「協働的な説明構築」を行っている。それが新たな理解の誕生、更なる問題点の認識と探察を導いた。また、「歴史上の社会問題を鏡として現代社会を見」て、「複数の社会問題の間に繋がり」、「世界で起きている問題と自国の社会問題との間に繋がり」を見出し、「自国における社会問題と自分を繋げている」ことを通して、自分が生きていることと文章の内容を結びつけ、自分を起点した理解を作っている。研究課題1から分かった結果を合わせ、それが授業で得られた知識を自分のものにすることとともに、学習者の「生きているスキーマ」の形成を促している。
最終更新日 2012年11月10日