氏名 |
杉藤 志帆 |
修了年度 |
2010年度(2011年1月提出) |
修士論文題目 |
接続詞使用の特徴 −使用傾向と使用位置に着目して− |
要旨(500字以内) |
本研究では、中国人日本語学習者を対象に、中級学習者(以下中級NNS)と上級学習者(以下上級NNS)の意見文における接続詞の使用傾向及び使用位置の違いを明らかにすることを目的とし、日本語母語話者(以下NS)との比較研究を行った。 使用傾向については三つの違いが見られた。一つ目は文体の違いで、中級NNSは口語的な接続詞の使用が多く、上級NNSも中級NNSよりは少ないがNSよりは多かったことから、NNSの文体への意識の低さが窺われた。二つ目は添加の接続詞の違いで、NNSはどちらも「そして」が多いが、NSは「また」が多かった。「そして」は使用に制約があるが、NNSの中には制約を破っているものが多かった。三つ目は逆接の接続詞がNSの方に多かったことで、NSは主張の制限や反駁に逆接の接続詞が使用していたが、NNSは主張の制限や反駁がなかったり、あるべき所に逆接の接続詞がなかったりした。接続詞の位置は、中級NNSは接続詞の係る範囲が狭く、文と文をつなげているが、上級NNSは範囲が拡大し、複数の文や段落をつなぐためにも機能しており、NSは接続詞を段落単位やこれまで述べてきた文章全体をまとめる文章単位で使用していた。 |
要旨(1000字以内) |
学習者の作文を見ていると、文法的には誤っていないのに、つながりが悪く分かりにくいと感じるものがある。この要因の一つとして接続詞が考えられる。本研究では、学習者数が韓国に次いで多い、中国人日本語学習者を研究対象とし、中級学習者(以下中級NNS)と上級学習者(以下上級NNS)が意見文において接続詞をどのように使用しているのかを、接続詞の使用傾向(研究課題1)及び使用位置(研究課題2)という観点から明らかにすることを目的として、日本語母語話者(以下NS)との比較研究を行った。 その結果、研究課題1では、使用傾向に大きく三つの違いが見られた。一つ目は文体上の違いで、中級NNSは話し言葉に使われる接続詞の使用が多く、上級NNSは中級NNSよりは少なくなっているが、NSよりは多く見られたことから、NNSの文体への意識の低さが窺われる。二つ目は添加型の接続詞の使用の違いで、NNSは中級、上級共に「そして」が最も多いが、NSは「また」が多かった。初級で学ぶ「そして」は使用上の制約がある(石黒2000)のだが、本データではその制約を破っているものが多く見られた。そして三つ目は逆接の接続詞の使用がNNSに比べてNSに多かったことであった。NSは主張を制限したり、反駁したりする際に逆接の接続詞が使用され、それによって書き手の主張がより説得力を持って書かれていたが、NNSは主張の制限や反駁がなかったり、あるべきところに逆接の接続詞がなかったりして、文章展開に混乱をきたしているものが見られた。 研究課題2では、接続詞の位置について分析を行い、中級NNSは接続詞の係る範囲が狭く、接続助詞のように文と文をつなげるレベルで、段落同士をつなげたり、文章全体をまとめたりする使用が少ないが、上級NNSでは範囲が拡大し、複数の文をつないだり、段落をつないだりするためにも機能するようになり、NSは接続詞を段落単位またはこれまで述べてきた文章全体をまとめる文章単位で使用しているということが分かった。 以上の結果から、接続詞を指導する際は、文体の違いや意味制約など、語レベルでの指導だけでなく、長さのある文章を使って、接続詞が広い範囲をつなげることもできるということを合わせて指導していく必要が示唆された。今後は、NNSに母語でも同じ内容の作文を書いてもらい、この結果が母語の影響によるものなのか、日本語での作文ということに起因しているのかについても検討したい。 |
最終更新日 2011年4月1日 |