氏名

王 植

修了年度

2010年度(2011年1月提出)

修士論文題目

「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく支援活動における子どもと母語話者支援者の「横の関係」
−母語支援場面に着目−

要旨

(500字以内)

 本研究では、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援において、同じ母語を持つ支援者と子どもの「横の関係」を明らかにすることを目的とした。その結果、「横の関係」においては、子どもは自分の興味関心のある話題を提起し、支援者に考えさせ、評価まですることができる。また、両者が互いの意見を尊重し合いながら意見を言い、対等的で対話的関係が築かれている。このような「横の関係」が構築されることにより、子どもは新しい中国語の言葉意味のある文脈の中で言葉の意味を理解しようとした。また、新しい概念について子どもが、<未知→否定的評価→新たな視点形成>というプロセスを経て、理解が深化された。さらに、子どもはある未知なものに対して、「探究的学習」を経験していた。最後に、自己が何者であるかを確認していることが分かった。以上のことから、当該モデルにおける母語話者支援者は、教科教育の専門家や日本語教育の専門家である必要は必ずしもないといえる。母語話者支援者と子どもの間には、同じような文化背景を持ち、日本という新しい環境に、共に苦労しながら根付こうとしている者同士という関係が想定されている。

要旨

(1000字以内)

 本研究では、日本にいる言語少数派の子どもを対象とする教科学習支援に示唆を得ることを目指し、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援において、同じ母語を持つ支援者と子どもの「横の関係」を明らかにすることを目的とした。
 その結果は、まず、「横の関係」がどのように作られたかについて、子どもが話題を切り出した場面に注目し、学習項目の決定者と談話の主導者という二つの視点から分析した。その結果、「横の関係」においては、@子どもは自分の興味関心のある話題を提起し、支援者に考えさせ、評価まですることができること、また、A支援者は子どもが提起した話題や学習項目として、真剣に考えようとすること、さらに、B両者が互いの意見を尊重し合いながら意見を言い、理解を協働で構成していく、対等的で対話的関係が築かれていることが示された。
 次に、このような「横の関係」が構築されることにより、子どもにおいてどのような学びが達成されたかについて、支援者と子どものやり取りをもとに推測した。その結果、子どもは新しい中国語の言葉の意味について、自発的に言葉の意味を確認しようとしていたことが分かった。その際、その言葉の「辞書的意味」を鵜呑みにするのではなく、支援者との相互作用を通じて、意味のある文脈の中で言葉の意味をイメージし、理解しようとした。また、新しい概念について子どもが、<未知→否定的評価→新たな視点形成>というプロセスを経て、理解が深化されていったことが分かった。さらに、子どもは環境、つまり自分の外にある未知なものに対して、自ら問いを発し、自己内対話や支援者との対話的なやり取りを通して、自分なりの理解を構成しようとする「探究的学習」を経験していたことが示された。最後に、自己が何者であるかを確認していることが分かった。
 分析結果により以下のように考察した。「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」における母語話者支援者は、教科教育の専門家や日本語教育の専門家である必要は必ずしもない点が最も重要であるといえる。母語話者支援者と子どもの間には、同じような文化背景を持ち、日本という新しい環境に、共に苦労しながら根付こうとしている者同士という関係が想定されている。したがって、学習項目についても常に支援者が準備しなければならないということはなく、子どもも学習項目の選定に関与することができ、さらに、学習のための談話を主導することもできる。他方、子どもにそうしたことが認められることによって、学びは双方向的なものになり、両者の間の横の関係はさらに強化されていくことになるであろう。
最終更新日 2011年4月1日