氏名 |
チョ・ナレ |
修了年度 |
2010年度(2011年1月提出) |
修士論文題目 |
韓国語を母語とする日本語学習者の補助動詞テクルの習得 −認知的難易度と母語の影響について− |
要旨(500字以内) |
本研究では、韓国の大学で日本語を学んでいる学習者を対象に質問紙調査を実施し、「認知的難易度」と「韓国語に対応するか否か」の要因が補助動詞テクルの各用法の習得にどのように作用しているのかを調査した。 その結果、(1)認知的難易度よりも韓国語に対応するかどうかがテクルの習得により強い影響を及ぼす、(2)韓国語に対応する用法は日本語習熟度が上がるにつれて習得されていくが、その際には認知的に易しいものの習得が早い、(3)韓国語に対応しない用法の中では、日本語と韓国語で概念が類似している用法の習得の方が容易である、(4)韓国語に対応せず類似の用法もないものは、日本語習熟度が上がっても習得が困難であることが明らかになった。 このように、韓国語を母語とし、JFL環境で日本語を学ぶ教室学習者の場合、テクルの習得には、「認知的難易度」より「母語との対応関係」が強く影響することが窺われ、今まで比較的軽視されてきた「母語の影響」により注目し、第二言語の教授の際にも今まで以上に考慮する必要があるということが示唆された。今回は韓国人学習者のみを研究対象者としているため、今後、調査対象者や言語項目を広げてさらなる検証を行うことが課題であると考える。 |
要旨(1000字以内) |
第二言語としての日本語の普遍的な習得順序を調査した研究では、学習者の個別性に関係なく一貫した傾向が見られた場合は「認知的難易度」が理由としてあげられ、異なる結果となった場合は「母語の影響」が問題視されることが多いが、この「認知的難易度」の要因と「母語の影響」の要因を直接対立させて調査した研究は非常に少ない。そこで本研究では、この二つの要因が日本語の補助動詞テクルの習得にどのように作用しているのかを明らかにすることを目的とし、韓国の大学で日本語を学んでいる学習者88名を対象に動詞の形を選ぶ質問紙調査を実施し、テクルの選択率を分析した。 まず、研究課題1で、認知的な難易度や韓国語に対応するかしないかによってテクルの選択率の平均値に差があるかを検討した結果、「認知的難易度」はテクルの習得にあまり影響しないが、「母語との対応」はテクルの習得において重要な要因であることが示された。 研究課題2では、被験者を日本語習熟度により下位・中位・上位群の三グループに分け、テクルの各用法別の選択率を検討した。その結果、「韓国語に対応し、認知的に易しい」用法の習得が最も早く、その次に「韓国語に対応し、認知的に難しい」用法の習得がなされることが明らかになった。なお、韓国語に対応していない用法の中では、韓国語に概念が類似している用法があれば、認知的難易度が高い項目でも習得は容易であり、母語に対応せず類似の用法もないものは、たとえそれが認知的に易しい用法であっても習得が難しいことが推察された。 このように、韓国語を母語とし、JFL環境で日本語を学ぶ教室学習者の場合、テクルの習得には母語との対応関係が予想以上に大きく作用していることが見受けられ、形式的な転移のみならず概念的な転移の可能性も示された。この結果は、これまで普遍的に影響すると言われていた「認知的難易度」より、個別的要因として扱われてきた「学習者の母語」の方が習得への影響が強いことを示している。なお、第二言語習得の普遍性の中で比較的軽視されてきた「母語の影響」という個別的側面により注目し、第二言語の教授の際にも今まで以上に考慮する必要があることを示唆している。 今回は韓国人学習者のみを研究対象者としているため、今後、調査対象者や言語項目を広げてさらなる検証を行うことが課題であると考えられる。 |
最終更新日 2011年4月1日 |