氏名 |
千葉 千恵子 |
修了年度 |
2010年度(2011年1月提出) |
修士論文題目 |
メタ言語的内省が第二言語習得に与える効果 −文章復元タスクによる受身の習得を通して− |
要旨(500字以内) |
本研究は、意味重視の指導法である「文章復元タスク」に取り入れた「メタ言語的内省(以下、内省)」が、日本語の受身の産出の正確さを高めることに有益かどうかを調べる。
実験では、日本語中級レベルの中国語母語話者を受身の習熟度別に分け、内省を行う群と行わない群に対して処遇を与え、事前・直後・遅延テストでの得点により指導の効果を測った。結果として、習熟度が低い学習者に産出の正確さを高める効果がみられた。特に、時間制限のない産出よりも、時間制限のある産出において効果が明確に現れた。また、この効果は一週間後も持続することが明らかになった。 実験の結果、および質的な分析により、内省は習熟度が低い学習者に対しては暗示的学習を促進し、受身のもつ「視点」に関する認知的処理を促すと同時に、被害の感情をもつ有情物を主語にするといった認知的な制約に気づかせる働きがあることが示された。しかし、無情物を主語にする不自然な文の産出が自動的になっている学習者では、内省によりそれを修正することが難しいことが示され、複雑な受身構造を習得するためには、メタ言語的内省を取り入れた指導を学習の早い段階で行うことが有益であることが示唆された。 |
要旨(1000字以内) |
第二言語を効率的に保持し適切に運用することができるように指導するには、どのような方法が効果的なのか。本研究は、この課題に対する答えを探るために、意味重視の指導のなかで行われるメタ言語的内省が、目標言語の産出の正確さを高めることに有益であるかどうかを明らかにすることを目的とする。 メタ言語的内省とは、「目標言語に関する規則」または「学習者が目標言語に関してもっている仮説」などを、学習者自身が自ら言語化することを指す。これは、形式への焦点化を助け、形式−意味−機能のマッピングを促し、産出の正確さを高めると言われている。 本研究においては、意味重視の指導法として「文章復元タスク」を用い、日本語の「受身」を対象言語形式とした。「文章復元タスク」は形式と意味の統合が起こるアウトプット中心のタスクとして評価されており、「受身」は視点・感情に依存した複雑さを含み、正確な産出を行うには形式への焦点化が必要とされる。つまり、「文章復元タスク」の際に「メタ言語的内省」を引き出す処遇を加えると、「受身」の習得の促進、特に「産出の正確さ」を高める可能性が十分にあると考えられる。 実験では、日本語中級レベルの中国語母語話者を受身の習熟度別に分け、メタ言語的内省を行う群と行わない群に対して処遇を与え、事前・直後・遅延テストでの得点により指導の効果を測った。結果として、習熟度が高い学習者では、「産出の正確さ」を高めることに効果がみられなかったが、習熟度が低い学習者では効果がみられた。特に、考える時間を与えられた産出よりも、時間制限のあるより自発的な産出において効果が明確に現れた。また、この効果は一週間後も持続することが明らかになった。 実験の結果、および質的な分析により、メタ言語的内省は、習熟度が低い学習者に対しては、暗示的学習を促進し、受身のもつ「視点」に関する認知的処理を促すと同時に、被害の感情をもつ有情物を主語にするといった認知的な制約に気づかせる働きがあることが示唆された。しかし、無情物を主語にしてしまう不自然な文の産出が、ある程度自動的になっている学習者では、メタ言語的内省によりそれを修正することが難しいことが示され、本研究の習熟度が高い学習者では、この傾向が強く現われた。 以上のことから、複雑な受身構造を習得するためには、メタ言語的内省を取り入れた指導を学習の早い段階で行うことが有益であり、その後の段階では、さらに明確にマッピングを起こさせるようなタスクを行う必要性があることが示唆された。 |
最終更新日 2011年4月1日 |