修士論文要旨


氏名

山中 弘子

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

理系大学生の教育価値観と就業動機との関連
−日本とフィンランドの比較−

要旨

(300字以内)

 日本とフィンランドの理系大学生を対象に、教育価値観、就業動機、実務志向を把握し、その関連を明らかにすることを目的に質問紙調査を実施し、合計218名から回答を得た。
 統計的な分析の結果、日本人は大学での知識等の獲得意欲が薄いことが示された。同時に、教育に対する受身の期待と職業獲得に関係がみとめられたことから、教育と就業、実務が分断していることが示された。しかしフィンランド人は、大学で知識等を獲得する意欲が高いことが確認された。さらに、教育での自律性が就業での人間関係重視と達成意欲への関係が認められたことから、教育と就業、実務との分断はなく、大学で得た知識が実務で役立つという、両国の特徴が明確になった。

要旨

(1000字以内)

 日本の大学進学率は50%をこえ、望めば誰でも進学可能な状態だが、大学で得た知識を実務場面で役立てることは重視されていない。従来、企業側も学生に対し、入社前の職業能力は求めてこなかったが、年功序列の崩壊やグローバル化による競争の激化などで、即戦力を求めるような変化がみられる。
 そこで本稿では、日本とフィンランドの理系大学生が教育価値観、就業動機、実務志向をどのように捉えているかを把握し、その関連を明らかにすることを目的として質問紙調査を行い、合計218名から回答を得た。
 その結果、教師、学生、教育に対する理想像をたずねた「教育価値観」では、日本人は「教師の専門性」「教育観の社会化」等が有意に高かった。フィンランド人は「教師の熱意」「教師の学生尊重」「教育観の文化的視野」等が有意に高かった。
 次に、将来就業する際の動機をたずねた「就業動機」では、まず因子分析で構造を確認したところ「人間関係重視」「達成意欲」「職業獲得努力」「周囲の評価」「消極的就業意識」の5因子が認められた。次に下位尺度得点を両国で比較したところ、日本人は「職業獲得努力」が、フィンランド人は「達成意欲」がそれぞれ有意に高かった。
 さらに、大学の授業が実務で役立つかをたずねた「実務志向」では、フィンランド人が有意に高く、大学に実利的役割を期待していた。一方日本人は学歴取得を目的とする傾向が強く、大学に名目的役割しか期待していないことが確かめられた。
 最後に、教育価値観を独立変数、就業動機と実務志向を従属変数として重回帰分析で関連を検討した。その結果、日本人は教育価値観の「教師の専門性」と「従順(逆転項目)」から就業動機の「職業獲得努力」との間に、また「教師の専門性」と「周囲の評価」の間に関係性が認められた。フィンランド人は「教師の熱意」と「教師の学生尊重」から「人間関係重視」との間に、また「教師の学生尊重」と「学生の従順(逆転項目)」から「達成意欲」との間に関連性が認められた。
 以上の結果から、日本人は大学での知識等の獲得意欲が薄く、教育に対する受身の期待と職業獲得に関係があることから、教育と就業、実務が分断していることが示された。また、フィンランド人は大学で知識や技術を獲得する意欲が高く、教育における自律性が職業におけるよい人間関係と達成意欲へと関係していた。このことから、教育と就業、実務との分断はないことが示され、両国の特徴が明確になった。
最終更新日 2011年4月1日