修士論文要旨 |
氏名 |
蒋 師 |
修了年度 |
2009年度(2010年1月提出) |
修士論文題目 |
日本語における講義理解のプロセスについて −中国語母語話者上級者を対象に− |
要旨(300字以内) |
本研究では、中国語母語話者上級者の講義理解の聞き取りにおけるストラテジーとその理解に至るまでのプロセスの特徴を解明することを目的とし、現役大学院生11名を対象に、発話思考法を用いて調査した。 その結果、25種類のストラテジーを抽出した。学習者は講義を理解する際、「問題特定」と「推測」に偏ることなく多種類のストラテジーを使っていることが分かった。また、ストラテジーの使用状況をさらに詳しく分析した結果、「問題特定」「推測」を多用するグループと「精緻化」「〜コメント」を多用するグループに分けられることがわかった。二つのグループはそれぞれストラテジー連鎖と事後要約においても共通した違いが見られた。この結果は先行研究でよく言われている「問題特定」と「推測」に限って多用することと違っている。このような違いが生じた理由は、今回の実験テキストが実際の講義であること、講義理解のプロセスを発話思考法で調査したこと、及び被験者が日本語学習者ではなく、現役の大学院生として実験に臨んだことの三点にあると考える。 |
要旨(1000字以内) |
近年、グローバル化が進むとともに、外国から日本に来た留学生の数も増加の傾向が見られる。2008年7月には、政府から「留学生30万人計画」が発表されるなど、これからも留学生は増える一方だと予想される。留学生の人数が増えるとともに、留学の目的も専門学校や大学などで知識や技能を習得するだけにとどまらず、大学院での修士や博士の学位取得など多様なものになっている。研究者を目指す留学生が増えていることがうかがえる。そこで、留学生が留学生活のうち、とりわけその勉強及び研究生活に注目する必要性が出てくる。 光元(2004)では、研究留学生である大学院の正規生及び研究生が研究を進める上で、「聞く」技能を最も必要であると考えていることがわかった。筆者の周りに筆者と同じように講義をよく理解できない留学生もいれば、うまく聴いているような留学生もいた。そこで、留学生がよりよい講義理解が出来るようになるためには、どのような工夫をすればいいのかを考えたい。その前に、留学生は講義を理解する際、一体どういうプロセスを経て、講義を理解しているのかについて調べる必要性を感じた。 本研究では、中国人母語話者日本語上級者の講義理解の聞き取りにおけるストラテジーとその理解に至るまでのプロセスの特徴を解明することを目的とし、現役大学院生11名を対象に、発話思考法を用いて調査した。その結果、学習者は講義を理解するために、積極的にいろいろな手段を使っていることが分かった。また、各ストラテジーの使用頻度を調べたところ、先行研究で得られた結果と違って、「問題特定」と「推測」に偏ることなく、多種類のストラテジーをバランスよく使っていることが分かった。また、対象者1人ひとりの講義理解に注目し、それぞれのプロセスのストラテジー使用の特徴が明らかになった。ストラテジーの使用特徴に従って、対象者を、より「問題特定」と「推測」を多用するグループ1、と「精緻化」及び「〜コメント」を多用するグループ2に分けられた。2つのグループの事後要約と講義理解プロセス及びストラテジーの連鎖を調べた結果、どちらのグループに所属する対象者も、先行研究の被験者と比べると、自分のリソースを有効に使って講義理解に挑戦していることが分かった。特に、グループ2にはその特徴が明確に見られて、未知語句の多寡に拘らず、自分と統合しながら、講義内容について社会的・情意的理解が出来ている。それに対して、グループ1はこれまでの先行研究の指摘に近い。このような違いが生じた理由は、今回の実験テキストが実際の講義であること、講義理解のプロセスを発話思考法で調査したこと、及び被験者が日本語学習者ではなく、現役の大学院生として実験に臨んだことの三点にあると考える。 さらに、留学生が講義を理解する時の工夫に対する示唆を、「いつでもあきらめることなく自分の持つリソースを活用すれば、講義への理解が促進できる」と「より大きな談話レベルで講義全体の意味を考え、理解を進めたほうが有効的である」の2つの面から述べた。 |
最終更新日 2011年4月1日 |