修士論文要旨 |
氏名 |
劉 雲霞 |
修了年度 |
2009年度(2010年1月提出) |
修士論文題目 |
言語少数派の子どもを対象とした母語による教科学習支援の実態
−子どもの母語による読み書きに注目して− |
要旨(300字以内) |
本研究は、言語少数派の子ども(1名)を対象にし、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援における、「母語による先行学習」場面の読み書き活動の実態を探ることを目的とした。 その結果、子どもが、支援者と関わりながら、@文章の基本情報の把握、A人物に対する感想の表出、B作者の論点への認識、C複文構成及び文の表現の吟味、D関連内容の日中比較、という多様な読む活動に参加できたことが分かった。さらに、子どもが実際にペンを動かして課題に解答することで、「書き抜き」、「書きまとめ」「書き広げ」などのような「第三の書く」技能を活発に組み合わせて運用でき、学年相応の教材文の理解を深めることができたことがわかった。 |
要旨(1000字以内) |
近年、言語少数派の子どもの増加に伴い、彼らに対する「日本語教育」が次第に注目されてきた。言語少数派の子どもを対象とした「日本語教育」は、「日本語指導」の議論のみではなく、子どもの母語保持・伸張の重要性についても多くの指摘がなされている(佐藤2001,埋橋2004, 湯川2006)。しかし、具体的にどのようにすれば、このような言語少数派の子どもたちに教科学習を継続させながら、自分の持っている母語の力を充分に発揮させることができるかはまだ検証段階である。 本研究では、言語少数派子どもの母語保障、中でも特に喪失しやすい母語による読み書き能力の保障の方法を提案することを目的とし、筆者がこの間携わってきている「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援活動を取り上げ、そこでの読み書き活動の実態を探ることにした。そこで、@子どもは書くタスクに取り組む際に、どのような読む活動に参加しているか、A 読む活動を通して、子どもはどのような書くアウトプットをしているか、という二つの研究課題を立てた。 研究課題1には「母語による先行学習」で取り組まれた学習活動の枠組み(朱2007)を用い、また研究課題2には「第三の書く」(青木1987)を援用し、教科学習支援の中で行われている学習活動を会話例と子どもの書くタスクに対する解答シートに基づいて分析した。その結果を、以下にまとめる。 言語少数派の子どもを対象とした母語による教科学習において、子どもは支援者と関わりながら、書く課題を完成させるために、多様な読む活動に参加できたことが分かった。その読む活動は主に、@文章の基本情報の把握、A人物に対する感想の表出、B作者の論点への認識、C複文構成及び文の表現の吟味、D関連内容の日中比較、という五つの活動が挙げられた。これらの読む活動に参加することで、書く課題に対する解答への準備ができたことがわかった。さらに、子どもが実際にペンを動かして課題に解答することで、「書き抜き」、「書きまとめ」「書き広げ」などのような「第三の書く」技能を活発に組み合わせて運用し、学年相応の教材文の理解を深めることができた。 子どもが自分の持っている読み書き能力を生かしてこのような学習活動に参加することで、年齢相応の教材理解を促進させるだけではなく、喪失しやすい母語の読み書き能力の保持にも役立つと考えられる。また、このような学習の実現と、そこに母語話者支援者が常に働きかけていることを切り離して考えることは難しいことが示唆された。 |
最終更新日 2011年4月1日 |