修士論文要旨


氏名

岡村 佳代

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

ニューカマー生徒が経験する学校生活における困難とその対処行
−浜松市の調査から−

要旨

(300字以内)

 日本の学校においてニューカマー生徒を取り巻く問題が顕在化してきている。しかし、これまでニューカマー生徒の視点から困難の実態や傾向を量的調査で検討したものはなく、また、彼らの困難の対処行動に焦点を当てた研究も十分行われていない。そこで本研究では、ニューカマーの中学生、高校生の学校生活における困難と対処行動を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施し、その結果を分析した。主な結果として、中学生と高校生では、中学生の方が「情報・サポート不足」「部活文化への困惑」の困難度が高く、高校生の方が「学校・教師不信」の困難度が高いことが明らかになった。また、対処行動の多くに日本人ピアとの関係や日本人の異文化理解が関連していることが示された。

要旨

(1000字以内)

 1970年代の後半からニューカマーと呼ばれる外国人が様々な目的により来日し、増加の一途をたどっている。それに伴い、日本の学校においてもニューカマー生徒を取り巻く問題が顕在化してきている。しかしながら、これまで、学校や地域全体のニューカマー生徒の困難の実態や傾向は、量的調査では検討されてきておらず、また、彼らの困難の対処行動に焦点を当てた研究もまだ十分行われていない。そこで本研究では、ニューカマーの集住地区の公立中学校、高等学校に通うニューカマー生徒の困難と対処行動を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施し、その結果を分析した。
 研究課題1では、ニューカマー生徒の学校生活における困難について因子分析を行い、「情報・サポート不足」「日本人ピアとの不和」「学校・教師不信」「同化要請」「日本人の異文化理解不足」「部活文化への困惑」の6因子が抽出された。それらの困難因子と属性との相関から、困難の多くに日本語能力の低さや滞日年数の短さが関連していることが示された。また、中学生、高校生では、中学生の方が「情報・サポート不足」「部活文化への困惑」の困難度が有意に高く、高校生の方が「学校・教師不信」の困難度が有意に高いことが明らかになった。
 研究課題2では、困難の対処行動について因子分析を行い、「問題解決」「感情的自己主張」「肯定的回避」「否定的回避」「サポート希求」の5因子が抽出され、属性の相関係数を求めたところ、「問題解決」、「サポート希求」と母語能力との間に正の相関があることが示された。
 研究課題3では、学校生活における困難が対処行動にどのように影響しているかについて、重回帰分析を行った。その結果、「日本人ピアとの不和」や「日本人の異文化理解不足」の困難がない生徒は、「問題解決」の対処行動を取りやすいことが明らかになった。また、日本語能力が高く、「日本人ピアとの不和」、「部活文化への困惑」の困難はないが、「情報・サポート不足」の困難がある生徒は、「肯定的回避」の対処行動をとる傾向があると示された。
 以上の結果から、日本の学校、日本人側が文化的・言語的差異に理解を示し、ニューカマー生徒を受容することで、彼らの困難を軽減し、さらに、ニューカマー生徒が自ら「問題解決」に取り組むことができると考えられる。つまり、ニューカマー生徒への支援は、彼らが日本の学校文化に適合するためのものから、彼らの能力が発揮しやすい環境づくりへとシフトしていくことが重要であると示唆された。
最終更新日 2011年4月1日