修士論文要旨


氏名

持田 ひろ子

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

L2日本語説明文の読解において,見出しの存在が再生に与える影響

要旨

(300字以内)

 トピックの見出しがL2の説明文の記憶と理解に及ぼす効果について検証した。日本語専攻の大学生109名を対象とした。見出しの与える情報機能の違いにより,トピック内容付与群・構成番号付与群・結合して付与群・統制群を設定し,被験者間要因1要因計画により,自由再生の得点を4群で分散分析し,さらに説明文と再生の構成の一致度を評価し,χ2検定を行った。結果は,全体再生量に差はなかったが,トピックの概念の再生では,2つの情報がある結合群は統制群より再生が多い有意傾向を示した。見出し群はテキストの構成に即して,トピック単位で情報を処理する傾向を示したが,統制群は情報の内容から推測して,トピックの異なる下位情報同士を結びつけていた。そのため,結びつかない情報が脱落した。トピックの内容を特定する情報と文章の構成を明示的に伝える情報の2つを与えることがL2説明文読解に効果があることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 説明文の理解には文章の全体的なトピック構成や主要な概念間の修辞構造を特定することが重要な要因とされる。しかし,L2の学習者は,低次レベルの言語処理が自動化されていなので,それに認知資源を要し,パラグラフやテキスト全体の構造といった高次レベルの処理が弱い。このような点を支援するものとして,見出しの機能に着目した。L1の読解研究では見出しはテキスト構造を標識するものとして,構造理解への効果が出されている。対象は中国語を母語とする日本語専攻の大学生109名で,見出しの与える情報機能別に条件を設定し,文章処理の違いを再生で分析した。トピックラベル群28名,階層構成の番号群26名,トピックラベルと階層構成の結合群28名,統制群27名で,4水準の被験者間要因による1要因計画である。読解材料は1,800字の環境問題に関するもので,7つのトピックからなる列挙型の文章構成で,各トピックに条件に応じた見出しを挿入した。分析測度は,再生のアイデアユニット得点とし,全再生量,トピックごとの再生量,重要情報の再生率,トピック出現数,さらに読解材料の構成と再生の構成の一致度を比較した。
 結果は,全体再生量については,見出しの影響は認められなかった。見出しの違いによっても差はなかった,しかし,トピックごとの再生については,統制群と構成群はトピックによって再生量の較差が大きかったが,トピックラベル群と結合群は較差が少なく,全体的に一定した再生量であった。最重要の情報の再生についても結合群は統制群よりも有意に再生した。また,トピックの下位情報が1つでも再生された場合をトピックの概念が出現しているとして,異なりトピック数を条件間で比較したところ,7つのトピックのうち,結合群とピックラベル群は,ほぼ6つ出現しているのに対して,統制群とはほぼ5つであった。さらに,再生の構成と読解材料文の構成の一致度を比較すると,結合群は読解材料の文章構成に即して再生が出現し,トピックごとの情報もまとまっているが,統制群は,再生での情報の出現順序がランダムであり,情報が散らばる傾向が見られた。
 見出しの存在によって,読み手は文章の構造に沿った読みをするが,見出しがない場合は,異なったトピックの下位情報同士を関連付けるなど,テキストの構成に留意した読み方をしない傾向が示された。トピックラベル群よりも,さらに構成階層を番号で付与した情報を加えたほうが,効果が見られた。
最終更新日 2011年3月31日