修士論文要旨


氏名

黄 明淑

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

「誘い」表現における中日対照研究
−誘い部の言語行動に着目して−

要旨

(300字以内)

 本研究では、中日両言語の談話レベルでの対照の立場から、「誘い」行為における両言語の特徴及びコミュニケーション・ルールの違いを見出すことを目的とし、誘いの談話の構造を明らかにすることに焦点を当てて、中国語母語話者(CNS)と日本語母語話者(JNS)の誘い部における共通点と相違点を比較、考察している。
 本研究では誘い手の誘い部における言語行動に着目して、まず、CNSとJNSの全体的意味公式や種類別の意味公式の使用頻度を明らかにし、種類別の意味公式の内、「共同行為要求」「誘導発話」「注目表示」のそれぞれの共通点と相違点について述べている。
 その結果、CNSはポジティブ・ポライトネス重視の誘い方をする傾向が強く、JNSはネガティブ・ポライトネス重視の誘い方をする傾向があることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 人と人は何かの目的を達成するためにコミュニケーションをし、それにはさまざまな言語行為が行われる。本稿は、言語行為の中の「誘い」行為に注目し、分析対象とする。円滑なコミュニケーションや人間関係作りに「誘い・誘われる」言語行為は非常に大事なものだと考える。これまでの「誘い」行為に関する研究を見ると、誘い終了部の誘われる側(被誘い手とも言う)に焦点を当てた「断り」研究は多いものの、誘い部の流れやプロセスに焦点を当てた研究はあまり見当たらない。
本研究では、中日両言語の談話レベルでの対照の立場から、「誘い」行為における両言語の特徴及びコミュニケーション・ルールの違いを見出すことを目的とし、誘いの談話の構造を明らかにすることに焦点を当てて、中国語母語話者(以下CNSとする)と日本語母語話者(以下JNSとする)の誘い部における共通点と相違点を比較、考察している。
 本研究では誘い手の誘い部における言語行動に着目して分析を行った。また、CNSとJNSの全体的意味公式や種類別の意味公式の使用頻度を明らかにし、「共同行為要求」、「誘導発話」、「注目表示」のそれぞれの共通点と相違点について述べてきた。
 まず全体的意味公式の使用頻度において、CNSのほうがJNSより多いこと、「共同行為要求」の分類において、JNSより「自分の意向を述べる」を多用すること、「共同行為要求」との組み合わせの出現順序において、「情報提供+共同行為要求」パターンの組み合わせや「共同行為要求」の連続出現パターンを多用する傾向があること、また、「誘導発話」の内容において、「直接型」を使用していること、「誘導発話」の出現数において、単独使用、2回連続使用、3回連続使用を用いる傾向があることから、CNSはポジティブ・ポライトネス重視の誘い方をする傾向が強いことが考えられる。
 一方、JNSは全体的意味公式の使用頻度がCNSより低いこと、「相手の意向を尋ねる」を多用すること、「共同行為要求」の出現パターンにおいて、「気配る発話+共同行為要求」の組み合わせを多用すること、「誘導発話」の内容において、「婉曲型」を使用する傾向があること、またその出現数においては、ほとんどの場合、単独使用を用いる傾向があることから、ネガティブ・ポライトネス重視の誘い方をする傾向があることが考えられる。
 これらの結果から、お互いに両国の「誘い」の言語行動のコミュニケーション・ルールを認識することにより、コミュニケーション上の誤解を防ぎ、より効果的なコミュニケーションが実現できるということが示唆された。
最終更新日 2011年4月1日