修士論文要旨


氏名

小松 奈々

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

日本語母語話者との意見交換場面における熟達した日本語学習者のアーギュメント構造
−韓国語を母語とした学習者を対象として−

要旨

(300字以内)

 本研究では、日本語母語話者との意見交換場面において熟達した学習者はどのようなアーギュメントを用いているのかを、長さと理由づけの有無に注目して分析した。その結果、長さに関しては、簡潔な構造を持ち、さらにその中で「理由」「修正」機能を用いてはっきりと主張を表す傾向が見られた。理由づけの有無に関しては、両者が同率で用いられ、理由づけを含む場合は理由の根拠まで示し論理的に、理由づけを含まない場合は主張を補強したりまとめたりしながら述べていることがわかった。以上の結果から、熟達した学習者は意見交換というコンテクストを理解し、自ら発話機会を制限しながらその中で効果的に意見を述べるという高い言語処理能力があることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 本研究は、韓国語を母語とした学習者を対象に、熟達した日本語学習者にはどのような発話技術があるのかを明らかにすることを目的とした。特に、母語話者と対等な立場で行われる意見交換場面でのパフォーマンスに注目し、熟達した学習者はどのようなアーギュメント(意見述べ)を用いているのかを探った。
 研究に当たって、以下の2つの課題を設定した。@課題1:日本語母語話者との意見交換において、熟達した日本語学習者によるアーギュメント構造にはどのような特徴が見られるか。A課題2:日本語母語話者との意見交換において、熟達した日本語学習者によるアーギュメントに表れる発話機能にはどのような特徴が見られるか。
 データには初対面で同年代の日本語母語話者との15分の意見交換会話を用い、そこに表れた学習者によるアーギュメントを分析対象とした。分析には、学習者の日本語学習歴と所属を条件として2群(高群/低群各14名)を設定し、比較する方法を取った。課題1は、アーギュメントの長さ別および理由づけの有無別のアーギュメント出現比率について量的分析を行った。課題2は、課題1で明らかにされた構造別に発話機能の出現比率について量的分析を行い、さらに発話例を用いて質的検討を行った。
 分析の結果、熟達した学習者のアーギュメントは、長さに関しては、短い、つまり単純な構造を持つ傾向があり、厳密に述べたり理由づけをしたりすることで主張を簡潔に述べる特徴が見られた。理由づけの有無に関しては、全体の傾向として理由づけを含むアーギュメントを多用する傾向は見られないものの、理由づけのあるアーギュメントにおいては理由となる内容の根拠を説明することで論理的に述べる様子が見られた。また、理由づけのないアーギュメントにおいては主張を明確化したり主張を補強する意見を加えたりすることで全体をまとめながら話す様子が見られた。
 このことから、熟達した学習者は母語話者との対等な場面での意見交換というコンテクストを理解し、それに合わせた発話を選択していることが推察された。また、自ら発話スペースを制限した上でわかりやすく述べようとする、高度な言語処理能力を持っている可能性が示唆された。本研究は、言語レベルが上がるにつれ長く複雑な構造を持って話せるという、現在までに明らかにされてきた学習者の言語運用能力とは違った面での能力の一端を示すことができたと言える。
最終更新日 2011年4月1日