修士論文要旨


氏名

岩崎 裕久美

修了年度

2009年度(2010年1月提出)

修士論文題目

留学生と日本人チューターは学習支援活動をどのように意味づけているか

要旨

(300字以内)

 本研究は留学生と日本人チューターが学習支援活動をどのように意味づけているのか、構造構成的質的研究法にもとづく修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて、当事者の内的視点から検討した。結果、両者は学習支援活動において、ラポールが重要であるものと捉えており、今後のチューター制度を考える上で関係作りの重要性が示された。また、日本語を学ぶ留学生と日本語教育を学ぶ日本人チューターが学習支援活動を通して相互に学びあっていることが明らかになり、学習目的の異なる両者が協同で学ぶ実践の可能性が示された。さらに、チューター間や留学生の授業担当者とのネットワーク形成が、今後のチューター制度改善の課題のひとつであることが提示された。

要旨

(1000字以内)

 日本国内の留学生数は13万人を超え、2008年に打ち出された「留学生30万人計画」達成のため留学生の受け入れ環境改善が急務である。留学生の受け入れ環境改善の一環として、各大学ではチューター制度を導入し、日本人学生による支援を行っている。そこで、本研究では留学生が履修している日本語クラスで課された課題作文を留学生が取り組む過程でチューターは適宜支援をするという活動を実施した。そして、その活動を両者がどのように体験したかについて探ることで、疑問視されている学習面におけるチューターの機能を再検討することを目的とした。
 対象者は、活動に参加した留学生4名と担当したチューター5名(日本語教育履修生)である。対象者に半構造化インタビューを実施し、それを構造構成的質的研究法にもとづいた修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。
 その結果、留学生は学習支援活動を体験する中で、相手チューターに遠慮や戸惑いを感じながらもさまざまな方法で解決している。そして、作文を改稿する中で学びや自信を得、教師の評価に対する考えを変化させている。このような学習支援活動を留学生は自己の中で肯定的に捉えており、留学生自身の今後の日本語学習に対して積極性をもたらしていることが示された。一方、留学生と相対する日本人チューターは、チューターとして自身が未熟なための悩みや課題が出される授業と自分の支援の関係性による悩み、相手との関係による悩みを抱えていることが明らかになった。これらの悩みはチューター自身の工夫や他者に協力を得ること、相手の留学生との間にラポールが形成されることで解決することが示された。日本人チューターはこうした経験を通して、学習支援活動を通しての学びを認識し、チューターとしての自身の存在意義を見出していることが明らかになった。
 両者を比較すると、留学生も日本人チューターも学習支援活動において、両者のラポールが重要であるものと捉えており、今後のチューター制度を考える上で関係作りの重要性が示された。また、日本語を学ぶ留学生と日本語教育を学ぶ日本人チューターが学習支援活動を通して相互に学びあっていることが明らかになり、今後、学習目的の異なる両者が協同で学ぶ実践の教育的効果を多角的な角度から検討する必要性が示された。さらに、チューターが支援に際して抱える問題を解決する手段として、チューター間や留学生の授業担当者とのネットワーク形成が、今後のチューター制度改善の課題のひとつであることが提示された。
最終更新日 2011年4月1日