修士論文要旨 |
氏名 |
福冨 理恵 |
修了年度 |
2009年度(2010年1月提出) |
修士論文題目 |
同学年の初対面会話におけるスピーチレベルに関する考察 −日本語母語場面と日韓接触場面の比較− |
要旨(300字以内) |
本研究では、同学年の初対面会話における対話者間のスピーチレベルの決定について、日本語母語場面および日韓接触場面に見られる特徴の違いを明らかにするために、対話者双方の基本レベルの選択に着目した一致ペア・不一致ペアという分類をもとに会話データの分析を行った。その結果、母語場面では全会話の95%が一致ペアとなり、母語話者が対話相手とスピーチレベルを同調させるという規範意識を持っていることがわかった。同調の形には丁寧体基調パターン、普通体基調パターン、スピーチレベルが会話の中で変化するパターンが見られ、スピーチレベルの決定は、初対面であることへの配慮や同等関係の重視、会話内での心的距離の短縮といった要因により、対話者間の調整の中で協調的に行われていることが明らかになった。一方、接触場面では一致ペアは70%で、母語場面に比べて対話者間のスピーチレベルが同調する傾向は弱かった。一致ペアは全てが丁寧体基調パターンで、学習者全員が丁寧体を基本レベルとしており、母語話者の普通体使用率が高い場合には不一致ペアとなっていた。この対話者間のスピーチレベルのずれは、対話相手のスピーチレベルに対する意識不足や丁寧体の使いやすさなどから、学習者が一度選択したスピーチレベルを調整することができないために生じたものであることがわかった。 |
要旨(1000字以内) |
初対面会話における丁寧体や普通体といった話体の丁寧度、すなわちスピーチレベルの使い分けは日本語学習者にとって習得が難しく、適切な指導の必要性が指摘されている。しかし、これまでの研究にはスピーチレベルを対話者の相互作用の中で捉えているものは少なく、スピーチレベルが会話の中でいかに決定されるのかという点が十分に明らかにされていない。そこで本研究では、同学年の初対面会話における対話者間のスピーチレベルの決定について日本語母語場面および日韓接触場面に見られる特徴の違いを明らかにすることを目的とし、学習者に対するスピーチレベル指導への示唆を得ることを目指した。 分析には日本語母語場面(以下、母語場面)20組、日韓接触場面(以下、接触場面)10組の同学年の初対面会話を用い、各会話20分間の全発話についてスピーチレベルを丁寧体、普通体、中途終了型の3つに分類し、話者ごとにスピーチレベル比率を求めた。そして、対話者双方の基本レベルの選択が共通している会話を一致ペア、異なる会話を不一致ペアとし、両場面に見られるスピーチレベル決定の特徴について比較を行った。 母語場面では全会話の95%が一致ペアとなり、フォローアップインタビューから母語話者が対話相手とスピーチレベルを同調させるという規範意識を持っていることがわかった。同調の形には丁寧体基調パターン、普通体基調パターン、スピーチレベルが会話の中で変化するパターンが見られ、スピーチレベルの決定は、初対面であることへの配慮や同等関係の重視、会話内での心的距離の短縮といった要因により、対話者間の調整の中で協調的に行われていることが明らかになった。 一方、接触場面では一致ペアは70%にとどまり、母語場面に比べて対話者間のスピーチレベルが同調する傾向は弱かった。一致ペアは全てが丁寧体基調パターンで、学習者全員が丁寧体を基本レベルとしており、母語話者の普通体使用率が高い場合には不一致ペアとなっていた。この対話者間のスピーチレベルのずれは、対話相手のスピーチレベルに対する意識不足や丁寧体の使いやすさなどから、学習者が一度選択したスピーチレベルを調整することができないために生じたものであることがわかった。 以上のことから、学習者は対話相手とスピーチレベルを合わせる意識を持つとともに、スピーチレベルの決定は様々な要因により対話者間で協調的に行われるということを認識し、調整を行えるだけのスピーチレベルのバリエーションと対話相手のスピーチレベルの動きを察知し同調させるというストラテジーを身につける必要のあることが示された。 |
最終更新日 2011年4月1日 |