修士論文要旨


氏名

李 梅

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

在日中国人留学生の卒業後・修了後の進路観と進路選択に関して

要旨

(300字以内)

 留学生の進路問題に関しては、従来の研究では、実態調査で終わるものがほとんどで、留学生の進路状況を明らかにしたものの、そのような進路選択に影響を与えた規定要因が何かはまだ研究されていない。そこで本研究は、留学生の進路意識に焦点を当て、留学生の多数を占める中国人留学生198名を対象に、質問紙調査を用い、留学生の「進路観」と「進路選択」の関連性を明らかにすることを試みた。主な結果として、進路明確型の留学生は<自己実現型>と<キャリア蓄積型>の「進路観」を持つことと、進路不明確型の留学生は「留学生活のストレス」と「日本語力」が阻害要因であることが検証された。さらに、中国人留学生の「滞在不帰」(国に帰らない)の特徴的な進路意識も示唆された。

要旨

(1000字以内)

 留学生の受け入れ増加に伴い、必然的に卒業者、修了者も増加する。そのため、これまでの留学生受け入れ中心の留学生交流体制から、さらに一歩踏み込んだ卒業後、修了後の進路指導までも範疇に入れた留学生支援体制の充実が必要となっている。留学生の進路問題に関しては、従来の研究では、実態調査で終わるものがほとんどで、留学生の進路状況を明らかにしたものの、そのような進路選択に影響を与えた規定要因が何かはまだ研究されていない。そこで本研究では、留学生の進路意識に焦点を当て、留学生の多数を占める中国人留学生198名を対象に、質問紙調査を用いて分析を試みた。主な結果は以下の通りである。
 研究課題1では、中国人留学生の「進路観」の構造を明らかにした。中国人留学生の「進路観」は<国・社会貢献型>、<労働条件・経済力重視型>、<語学力・専門性重視型>、<自己実現型>、<消極的選択型>、<キャリア蓄積型>の6つの因子から構成され、<国・社会貢献型>の進路観は文系の学生に比べ理工系の学生が強く抱く傾向があることと、<消極的選択型>の進路観は修士課程の学生に比べ学部学生のほうが抱きやすいことが分かった。研究課題2では、中国人留学生の「進路選択」の構造を明らかにした。中国人留学生の「進路選択」は<第三国型>、<日本国内就職型>、<中国国内就職型>、<進路困惑型>、<起業型>、<結婚型>の6つの因子から構成され、<進路困惑型>の進路選択は文系の学生、<起業型>の進路選択は理工系の学生の希望が強いすることが分かった。さらに、修士課程の学生に比べ、学部学生のほうが<第三国型>、<日本国内就職型>、<起業型>の進路選択を希望する傾向が示された。また、留学生の日本語力の違いで、進路選択にも違いが見られ、初級と中級レベルの日本語学習者は<中国国内就職型>と<進路困惑型>の進路を選択しやすいことが示唆された。研究課題3では、中国人留学生の「進路選択」に影響を与える要因は何かを検証するため、「進路観」と日本語力を独立変数、「進路選択」を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、<自己実現型>と<キャリア蓄積型>の進路観を持つ留学生は明確な進路計画を持っているが、<消極的選択型>の進路観を持ち、日本語力に何らかの問題を感じる留学生は進路決定に迷いと戸惑いを感じやすいことが分かった。さらに、<第三国型>と<日本国内就職型>の進路選択に、<消極的選択型>の進路観と正の関係、<国・社会貢献型>の進路観と負の関係が見られたことから、中国人留学生の特徴的な卒業後の留学先における滞在不帰の問題も検証された。

最終更新日 2008年3月○日