修士論文要旨


氏名

西岡 あや

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

言語少数派高校生の日本及び自己の捉え方はどう変わるか
−文化祭展示への日本人フィードバックに注目したM-GTAによる分析−

要旨

(300字以内)

 本研究は、2名の言語少数派高校生が『日本人に一番伝えたいこと』をテーマに文化祭展示をし、日本人見学者からのフィードバックを得たことで日本や自己に対する捉え方がどう変容するのかについて明らかにした。SCQRMをメタ理論としたM-GTAにより、文化祭前後の発話を分析した結果 @文化祭前には、高校生は【日本のマスコミと日本社会とを同一視】しており、マスコミの母国への否定感を自らの展示への周囲の否定的評価として投影させていた。A多くの見学者の素直な驚きは拒絶的な日本イメージとは異なり、高校生に自分も相手もマスコミの目で互いを見ていたと気づかせた。日本人に母国文化の多様性を示せたことの自信は、高校生に【日本における発信者としての自己】を認識させた。

要旨

(1000字以内)

 学校現場に設けられた外国籍生徒に対する日本語教室は、言語少数派として日本で生活する外国籍生徒にとって、教科の補習といった学習の場であるだけでなく、同じ境遇の仲間同士が集い、多数派であるホスト社会への不満や怒りを安心して吐き出せる場として精神衛生上重要な役割を果たしている。その一方で、筆者は自身の海外滞在経験から、外部社会に閉ざされたエスニック・エンクレイブ(ethnic enclave)としての日本語教室の機能が固定化してしまえば、ホスト社会で様々な葛藤を抱えている言語少数派の子どもたちの問題は、ホスト側の日本人には共有されず、両者の間の誤解や偏見は修正されないままに助長、強化される恐れがあると考えた。
 そこで、筆者はこの問題を克服するために、2名の言語少数派高校生に対する作文授業の一環として『日本人に一番伝えたいこと』を共通テーマに個々のトピックで作文を書き、文化祭で展示発表することを企画した。それにより、エスニック・エンクレイブとしての日本語クラスを言語少数派高校生が外部社会へ発信する場に換え、見に来た日本人はフィードバックという形で彼らにメッセージを送り返すことにより、両者の間の誤解や固定観念が修正されることを目指した。
 本稿では、その実践報告を行い、日本人見学者からのフィードバックによって、言語少数派高校生の日本及び自己に対する捉え方が、どのように変容するのかについて仮説の生成を試みた。研究のメタ理論としてSCQRMを、分析方法にM-GTAを用い、文化祭前の授業での発話と文化祭後の個別インタビューでの発話を分析データとした。
 分析の結果、言語少数派高校生は、文化祭展示発表前において、マスコミと日本社会とを同一視していたことが示唆された。マスコミに対する反感が日本社会への捉え方に投影され、日本社会から母国に対する拒絶感や母国への無関心を感じていた。
 一方、展示においては予想外の多くの見学者から誠実なコメントや素直な驚き、励ましの言葉をフィードバックとして受け取った。これを機に、言語少数派高校生は、自分も相手もマスコミの限定的な見方でしか相手を見ていなかったと気づき、マスコミ依存から脱却するきっかけを得た。そして、国同士が仲良くなるためには、日本に生きる外国人である自分達が発信者となることが必要であると自己の存在意義を発見した。
 以上のような結果が得られたが、少数事例による限定的な範囲内のものと考え、今後より多くの事例を集めることより、本研究の結果の妥当性を確認する必要があると考える。

最終更新日 2008年3月○日