修士論文要旨


氏名

張 翌琳

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

中国日系企業の社内コミュニケーションに関する一考察
−中国人社員の「報・連・相」に対する意識や態度の形成プロセスに焦点を当てて−

要旨

(300字以内)

 本研究は中国の日系企業で働く中国人社員が社内コミュニケーション「報・連・相」に対する態度や意識をどのように形成するか、その形成にどのようなことが関与しているかをさぐるために、日系企業で10年以上勤めている中国人社員にインタビューを行い、その結果を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを使って中国人社員の内的視点から分析を行った。分析と考察の結果、中国人社員は、「報・連・相」の対象である日本人上司に対して、強い期待感を持ち、その期待感を上司が満たすか否かという判断により、異なる「報・連・相」の態度や意識の形成プロセスを辿ることになる。この結果から、「報・連・相」の本来的な目的(仕事を円滑に遂行することと、職場の良好な人間関係を築くこと)を達成するために、日本人上司が率先発信し、積極的に自己開示することが必要だという示唆を得られた。

要旨

(1000字以内)

 近年、グローバル化の進行とともに、日本国内の外国人ビジネス関係者を雇用する企業が増え、海外へ進出している日本企業も増加している。この状況の中で、外国人と日本人とのビジネス・コミュニケーション上の問題が注目され、研究もなされるようになった。しかし、今までの研究は量的な調査が多く、日本人の側から見る研究がほとんどである。そこで、本研究は中国の日系企業で働く日本人社員と中国人社員の社内コミュニケーション「報・連・相」に焦点を当てて、コミュニケーション上の問題を中国人社員の内的視点にたって解釈を提出することを目指す。
 中国の日系企業で働いている中国人社員が社内コミュニケーション「報・連・相」に対する態度や意識をどのように形成するか、その形成にどのようなことが関与しているかをさぐることを研究目的として、日系企業に10年以上勤めている中国人社員にインタビューを行い、その結果をM-GTAを使って分析を行った。
 分析と考察の結果、次の点が明らかにした。中国人社員は、社内コミュニケーション「報・連・相」を日系企業で働く社員としての当然の義務と認識し、言語と文化の差異から起こる様々困難を感じながらも、「報・連・相」に取り組む。しかし、その際、中国人社員は、「報・連・相」の対象である日本人上司に対して、強い期待感を持ち、その期待感を上司が満たすと判断するか満たさないと判断するかにより、異なる「報・連・相」の態度や意識の形成プロセスを辿ることになる。日本人上司が期待を満たさない(−)と判断した場合、「報・連・相」を下から上への一方的な行動として捉え、部下としての義務を果たすだけで責任を取らないための方便として、消極的に「報・連・相」を行うようになる。一方、日本人上司が期待を満たした(+)と判断した場合、上司と信頼関係を構築し、問題発生の防止と解決方法の検討をし、工夫しながら積極的に「報・連・相」を行うことになる。
 本研究の結果から、「報・連・相」の本来的な目的(仕事を円滑に遂行することと、職場の良好な人間関係を築くこと)を達成するために、日本人上司が率先発信し、積極的に自己開示することが必要だという示唆を得られた。しかし、今回は中国人社員に焦点を当てているが、その相手である日本人上司の社内コミュニケーション「報・連・相」に対する態度や意識の形成プロセスをも分析する必要がある。また、中国上海以外の地域や他の業種のデータを増やすことで、結果の妥当性を確かめていく必要があると考える。

最終更新日 2008年3月○日