修士論文要旨


氏名

田川 麻央

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

中級日本語学習者の説明文理解における情報の選択と統合の効果

要旨

(300字以内)

 L2の読み手の説明文理解を選択処理と統合処理をタスクによって促すことが理解表象にどのような影響を与えるか検証した。対象は成人の中級・中上級日本語学習者68人である。読み条件は選択群と統合群、選択統合群、統制群である。再認課題、自由筆記再生課題、真偽判定課題、応用課題を行った。実験計画は課題ごとに異なる。結果、どの条件も表層的記憶から離れた意味レベルの表象であったが、結束的ではなかった。L2学習者は選択処理が困難で、選択処理に失敗すると情報間の統合が促進しないことがわかった。また文章後半3節で選択群が有意に多く再生した。それにより選択タスクには間接的に文章全体の把握を助ける効果があった。

要旨

(1000字以内)

 第二言語(以下、L2)の学習者は、言語処理に困難があるため、情報の保持と統合が難しく、文章から結束的な表象を形成するのが難しい。処理の観点から言えば、情報の統合処理の前提として選択処理があり、選択処理が困難なために統合処理が困難なのか、選択処理はできても統合処理が困難なのか明らかになっていない。本研究では、L2の読み手の説明文理解をテキストベース構築から状況モデル構築へ到る過程として捉え、選択処理と統合処理をタスクによって促すことが理解表象にどのような影響を与えるか検証した。
 対象は、中国語・韓国語を母語とする成人の中級・中上級日本語学習者68人である。事前読解テストの成績をもとに、読み条件を割り当てた。読解文に加えて読解文から重要な情報を選択する選択タスクを課した選択群とあらかじめ用意された重要な情報を統合する統合タスクを課した統合群、選択タスクと統合タスクを課した選択統合群と読解文のみの統制群に17人ずつである。材料は約400字の説明文で、理解の指標に再認課題、自由筆記再生課題、真偽判定課題、応用課題を用いた。研究課題1でテキストベース構築を促すか、@表層記憶から離れたテキストベースが構築されているか、A重要なアイディアが把握されているか、B全体の再生量は促進されたか、C文章の冒頭から結末まで再生されるかによって検討した。研究課題2で状況モデル構築を促すかを検討した。  研究課題1の結果は、どの条件も意味レベルの表象が形成されていた。重要なアイディアの把握はどの条件も効果がなかった。全体の再生量は統合群に抑制効果がみられた。また、選択統合群、統合群、統制群は文章後半に再生が低下されたが、選択群は有意に多く再生された。さらに各条件は選択タスクで選択した箇所と選択しなかった箇所の再生を比較した。統合群と統制群は他の条件と比較するために用意されていた重要箇所と詳細箇所のどちらが再生されているか比較した。選択群は選択箇所が有意に再生されていた。選択統合群は選択箇所の再生に有意傾向がみられた。統合群と統制群は重要箇所の再生が有意でなかった。節ごとにみると文章後半に選択群の選択箇所が保持されていた。研究課題2の結果は、読み条件にかかわらず状況モデル構築を促進する効果はみられなかった。
 以上から、読み条件にかかわらず意味レベルの表象が形成されていたが、結束的な表象ではなかったことが示唆された。その原因はL2の読み手にとって選択処理が困難なことにあると言える。選択処理が失敗すると、情報間の統合が促進しないためであることが示唆された。しかし、選択タスクでどこが重要でどこが重要でないか把握することは間接的に文章全体を把握するのを助ける効果があることが示唆された。

最終更新日 2008年3月11日