修士論文要旨


氏名

岡嶋 裕子

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

タスクの違いがL2語の産出に及ぼす影響
−効果的語彙学習法を探る−

要旨

(300字以内)

 異なったタスクでL2新出語を学習した場合、産出語彙知識(意図伝達のために語形を生成使用する知識)の習得及びその記憶保持に違いがあるかを調査した。実験には、漫画を見て質問に答え、語を学ぶ「場面刺激タスク」、語を用いて文を作成し、その語を学習する「ライティング・タスク」、漫画を見、その解説文を読んで、文中の語を学習する「リーディング・タスク」の3つのタスクを用いた。その結果、学習直後に産出的語彙の学習に効果が大きく、その効果が長期的にも保持されたのは「リーディング・タスク」であったが、文だけでなく漫画の役割も大であったと思われる。また、タスク別の記憶保持度が最も高かったのは、場面刺激タスクであった。

要旨

(1000字以内)

 単語を認識し、意味を理解できても語形式を作りだせない語彙を受容語彙、スピーキングやライティングで語形式を生成して使用できる語彙を産出語彙と言う。Melka(1997)によると、第二言語(以下L2とする)学習者の場合、受容語彙は産出語彙の2倍である。
 本研究はL2学習者が豊かなスピーキング、ライティングを実現するために、学習者の産出語彙の習得促進を図ることを目的とする。そのために、日本語能力中上級の韓国人学習者を被験者とし、未知語を対象として次の研究課題で実験を行った。

 課題T.場面刺激タスク、ライティング・タスク、リーディング・タスクの3つの異なったタスクでL2新出語を学習した場合、語彙産出に違いがあるか。
 課題U.タスクによって語彙産出に違いがある場合、それは学習されたL2産出語彙知識の記憶に影響を及ぼすか。

 「場面刺激タスク」とは、漫画を見て質問に答え、語を学ぶタスクであり、「ライティング・タスク」とは、語を用いて文を作成しその語を学習するタスク、「リーディング・タスク」とは漫画を見、その解説文を読んで、文中の語を学習するタスクである。
 実験後、場面から刺激を受けてL2語を産出する「場面反応知識」、L1語からL2語形式を産出する「語形式産出知識」、対象語を用いて文を作る「語使用知識」の3側面の産出語彙知識を測る事後テストを、直後と2週間後の2回行った。
 その結果、次のことが明らかになった。学習直後に場面反応、語形式の産出、語使用のすべてに学習効果があるのは、ライティング・タスクとリーディング・タスクであり、両者に差はない(課題T)。しかし、2週間後の語形式の産出ではライティング・タスクの記憶消失が大きく、リーディング・タスクと有意な差が出てしまった(課題U)。したがって、場面反応、語形式の産出、語使用の産出的知識のすべてにおいて、学習直後に学習効果が大きく、その効果が長期的にも保持されるのはリーディング・タスクである。しかし、本研究のリーディング・タスクに付属した絵の効果も大きいと思われる。従って、産出的語彙学習に最も効果があるタスクは『絵つきリーディング・タスク』である。また、タスク別の記憶保持度を見ると最も保持度が高かったのは場面刺激タスクであった。

最終更新日 2008年3月11日