修士論文要旨


氏名

松尾 麻里

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

日本語ボランティアはどのような体験を通して活動を継続しているか
−地域日本語学習支援の現場から−

要旨

(300字以内)

 共生社会の実現に資する日本語教育の地域での実践をめざして、地域日本語教室の実態を、活動を担う日本語ボランティアの意識面から把握することを目的に、12名のボランティアのインタビューデータをM-GTAを用いて分析した。その結果、本研究の日本語ボランティアは日本語を言語形式としてとらえる傾向が強く、「日本語を教える」という行為を「母語話者の日本語」を知識として文法的に正しく効率的に教えることと認識しており、その実施に無理があることで困難を感じていることがわかった。また学習者とボランティアの間には「ボランティアが支援し、学習者が支援される」関係が形成されたが、「母語話者の日本語を教える−教えられる」関係をベースとしているために一方向的であり固定化している。この関係を流動化し教室を共生的な環境とするために、「共生言語としての日本語」の生成を目的とする相互交流型学習の導入を提言した。共生型の日本語学習の実施に際しては、「母語話者の日本語を教える」のではなく「共生言語としての日本語を参加者全員で創っていく」という発想の転換が必要であり、ボランティアの養成時に意識付けを行なう必要性を示唆した。

要旨

(1000字以内)

 日本国内の定住外国人は日本の総人口の1.6%を超え、地域における日本語教育の需要は急激に高まっているが、公的な言語サービスは充分でなく、ボランティアの主催する日本語教室が実質的にその任を担っている現状がある。また従来の日本語教育は、留学生等の短期滞在者を対象としており、定住志向の学習者が多い地域日本語教育の実情に合った理論と方法は未だ確立されているとはいえない。本研究は、共生社会の実現に資する日本語教育として共生日本語教育の実践をめざして、地域日本語教室の実態を日本語ボランティアの意識面から把握することを目的とした。都内のある日本語教室のボランティア12名のインタビュー・データを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果、以下が明らかになった。本研究の日本語ボランティア(以下ボランティア)は「ボランティアとして日本語を教えたい」と希望しているが、活動の過程で「日本語を教える」ことに伴う困難(知識・技術の不足感、学習者の多様性への困惑、学習者との距離感)に直面する。マンツーマンの学習活動の継続によって得た、学習者の個別性への認識などの気付きを活かしながら試行錯誤を繰り返し、ひとりひとりの学習者に合った支援方法を模索し、要望に応じて教室外での交流も行う。このような教室内外での支援の結果学習者との間に「支援し支援される関係」が形成されボランティアは自己の拡充感を得る。上記の分析結果を、共生社会を育む新たな日本語教育の構築という観点でとらえ直してみると、ボランティアにとって「日本語を教える」という行為は、「母語話者の日本語」を文法的に正しく効率的に教えることと捉えられていると考えられ、その実施に無理があるために困難感が生じていると考察した。「ボランティアが支援し、学習者が支援される関係」は、「母語話者の日本語を教える−教えられる」関係がもとになっているため一方向的であり固定化されている。この関係を流動化し教室を共生的な学習の場としていくために、「共生言語としての日本語」の生成を目的とした相互交流型の学習の導入を提案した。またボランティアの意識には活動の継続によって変容が見られたことを示し、ボランティアはこの活動によって生涯学習の過程を経験していると推測したが、今後は個人の学びを学習者との「関係」を双方向に変える力としていくことが期待されるとした。以上のことから、共生社会の実現をめざす日本語学習の導入に際しては、「母語話者の日本語を教える」のではなく「共生言語としての日本語を参加者全員で創っていく」という発想の転換が必要であり、ボランティアの養成時に意識付けを行なう必要性を示唆した。

最終更新日 2008年3月11日