修士論文要旨


氏名

趙 英梅

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

初級日本語学習者の聴解授業における映像教材に関する一考察

要旨

(300字以内)

 本研究では初級日本語学習者を対象に聴解授業における映像教材の効果を明らかにいた。初級日本語学習者の聴解授業はテープの聞き取りがメインであり、映像の使用はあまりなされてこなかった。しかし、現実は初級日本語学習者こそ聴覚だけでは内容の聞き取りが難しく、視覚もフル活用して内容の理解への手がかりが必要なのである。
 本研究は初級学習者を視聴覚グループと聴覚グループに分けてまったく同じ内容のテレビドラマを流して両グループの内容理解面での違いを明らかにした。語彙、文、ディスコースの3レベルにおいて比較を行った結果、語彙と文レベルでは違いがみられなかったが、ディスコースレベルでは、視聴覚グループは推測を行って内容を理解していることが明らかになった。また、時間がたつことにより、映像教材の内容は学生がまだ鮮明に覚えられていることに対し、音声教材の内容は学生がほとんど覚えていないことがわかった。映像教材は学生の既有知識を引き出し、自信を持たせていることもわかった。
 本研究で明らかになったことを基に、これからは初級日本語学習者の聴解授業における有効な教授法について考えていかなければならない。

要旨

(1000字以内)

 近年のVTR機器の質的な向上とその普及ぶりには、めざましいものがある。日本語教育の分野でも、視聴覚教材の一つとしてビデオが使われていることも珍しくない。しかしながら、初級日本語学習者の聴解授業では教材として視聴覚教材は重視されていない。日本語の聴解授業の教材としてテレビ番組のビデオを用いることは、さまざまな利点がある。番組ジャンルや内容、視聴時の集中度や理解度は一様ではないにしても、学習者は日常的にテレビをみている。つまり、テレビ番組のビデオをテキストとして利用することで、授業が現実の聴解活動に近いものになると考えられるのである。筆者は本研究において外国語としての日本語の初級学習者の聴解授業に映像教材を導入することの実現可能性を探ることにする。
 日本語教育では、映像教材の有効性を認めながらも実際の授業にはあまり使われていないのが現状である。映像教材は中級・上級日本語学習者向けというのが常識であり、学習の教材というよりは確認の道具として用いている使い方が多いのである。それに比べて初級日本語学習者には、聴解授業でもっぱら音声テープのみで使われてきた。近年、初級日本語学習者の聴解授業にも映像教材が使用されるようになったが、それは少数であり、その使われている映像教材は生のものは見られず、ほとんどが既成の文法使用法の確認の役割をするものである。
 本研究では、実際の場面において中級・上級日本語学習者より多くの手がかりを必要としている初級日本語学習者の聴解授業での映像教材活用の可能性を探ることを目的とする。
 本研究はA、B二つのグループに分かれて内容理解面で比較を行った。Aグループは映像+音声のビデオを流し、Bグループには音声のみを流した。内容はまったく同じものである。内容理解を語彙、文、ディスコ―スの三段階で比較を行った。以下が結果である。
 1)内容理解を語彙レベル、文レベル、ディスコースレベルに分けて調査した結果、語彙レベルと文レベルでは映像教材と音声教材とでは違いがみられなかったが、ディスコースレベルでは映像教材が音声教材より優れていることがわかった。
 2)時間がたつことにより、映像教材の内容は学生がまだ鮮明に覚えられていることに対し、音声教材の内容は学生がほとんど覚えていないことがわかった。また、映像教材は学生の既有知識を引き出し、自信を持たせていることもわかった。
 本研究の調査結果からも、初級日本語学習者が映像のある聴解で、知っている単語、文法以外にも映像による既有知識の喚起があったことがわかる。本研究がこれからの初級日本語学習者における聴解授業への示唆を与えることができたら幸いである。

最終更新日 2008年3月11日