修士論文要旨


氏名

チュオン・トゥイ・ラン(Truong Thuy Lan)

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

ベトナム語を母語とする日本語学習者における漢越語知識の利用ストラテジーの活用についての観察

要旨

(300字以内)

 本研究では、ベトナム語母語話者の日本語学習を対象にした翻訳調査を通じて、学習者の漢越語知識の利用ストラテジーの活用と、活用上で生じた誤用を観察した。設けられた対象語における翻訳結果を量的に分析した結果、漢越語知識の利用の指導を受けなくなった直後の2年生も、指導を受けなくなって時間が経った4年生も、漢越語知識の利用ストラテジーがかなり活用されているということが分かった。そして、活用上で生じた誤用を量的と質的に見た結果、日本語と漢越語の意味が異なる語彙では、日本語と漢越語を置き換えるときの誤用が、2年生でも4年生でも最も高い比率で起きたという結果を得られた。他には、同音異義の漢越音(漢越語の読み方)、漢越音からの連想による誤用も見られた。更に、4年生はでは一対象語についての誤用の種類が多いという現象が見られた。原因としては、4年生になって既知語の量が増えてくると、語彙の選択肢も増えてくることが考えられる。本研究は得られた結果より、漢越音と漢字の置き換えを中心とした現在の漢越語の指導法では不十分であり、意味の相異など含めた更なる徹底的な説明をすること、指導を1年生だけで終わらせずに4年生のような高学年生においても引き続き行う必要があることを提案する。

要旨

(1000字以内)

 現在のベトナム語では表記に漢字を使用することはないが、漢越語という中国語を由来とする外来語が多い。それ故、発音と意味の両面における漢越語と日本語の漢字の関連性は、ベトナムにおける日本語教育でかなり利用されている。本研究では、ベトナム人学習者が日本語学習の際に漢越語知識を利用することを「漢越語知識の利用ストラテジー」と呼ぶ。本研究は、大学の学習者が漢越語知識のストラテジーをどのように活用しているか、活用上どのような問題を発生させているかを探ることを目的とする。
 データ収集にはベトナムの大学で日本語を専攻している2年生と4年生のそれぞれの38名に協力してもらった。両方とも1年生のときに授業で漢越語知識を利用する事の指導を受けたのみで、2年生になってからは学生自身の学習に委ねている。収集データとして、それぞれの協力者にベトナム語問題文6文、日本語問題文6文の計12文を翻訳してもらった。問題文一文には明示されない対象語一語が設けられている。2年生用と4年生用の対象語は異なるが、両方とも「対象語は未知語であるが、構成される個々の漢字は既習語である」という条件を満たす語彙である。また、対象語は6語が日本語と漢越語の意味が同じ語彙(S=Same)で、6語が日本語と漢越語の意味が異なる語彙(D=Different) である。データ分析の方法は、研究課題1と研究課題2では各問題文の対象語の翻訳結果に焦点を当て、漢越語知識の利用ストラテジーが活用されたと推される解答の平均率を出して量的に観察した。研究課題3と研究課題4では各対象語に見られた漢越語知識の利用ストラテジーの誤答を取り上げ、量的と質的に観察した。
 データ分析より、漢越語知識の利用の指導を受けなくなった直後の2年生も、指導を受けなくなって時間が経った4年生も、漢越語知識の利用ストラテジーをかなり活用しているという結果が得られた。誤答に関しては、(D)語彙では、2年生でも4年生でも日本語と漢越語の置き換えによる誤答が最も高い比率で起きていた。他には、同音異義の漢越音(漢越語の読み方)、漢越音からの連想による誤答が見られた。更に、4年生には、一対象語について幾つかの種類の誤答が見られた。
 得られた結果より、漢越音と漢字の置き換えを中心とする現在の漢越語の指導法は不十分であることが分かった。本研究は、漢越語の指導を行う際には、両言語にある意味の相違なども注意するように指導すること、1年生だけで終わらせずに4年生のような高学年生においても引き続き指導を行っていくことを提案する。

最終更新日 2007年3月11日