修士論文要旨


氏名

岡村 郁子

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

帰国生の「受け入れクラス」に対する意識
−クラス形態の差異に着目して−

要旨

(300字以内)

 帰国生の『受け入れクラスに対する意識』に関する質問紙調査の結果、「友達との関係」「日本語運用力」「楽しさ・居心地のよさ」「積極的参加」「自由な自己表現」「在外経験の肯定的活用」「先生・友達からの認証」の7因子が見出された。こうしたクラス意識は、受け入れ形態や在外年数よりも、主に現地との関わりの深さにより規定されていることが認められた。『クラス意識相互の関連性』においては、@「在外経験の活用」はいずれの因子ともほぼ相関がないこと、A「楽しさ・居心地のよさ」には「友達との関係」や「積極的参加」等の因子が顕在的に関与しているが、加えて一般混入クラスでは「日本語運用力」が多くのクラス意識と高い相関を持って潜在的に影響を及ぼしており指導上注意が必要なこと、が明らかになった。

要旨

(1000字以内)

 帰国生教育は近年失速状態にあり、文科省においても在日外国人児童生徒教育と一括りのものと認識されつつある。しかし帰国生を取り巻く国内外の環境の変化に伴う「質の変化」が現場で十分に認識されているかどうかは定かでなく、また受け入れ校の掲げる「帰国生の特性伸長」「一般生との相互啓発」という目的が十分に果たされているかどうかも疑問である。さらに「受け入れ側の問題」としての視点に乏しく、帰国生の「受け入れクラス」に対する意識も明らかにされていない。こうした問題意識から本研究では3つの研究課題を設定し、質問紙調査の結果に基づき分析を行った。
 研究課題1では『帰国生の全般的な傾向』について、8属性ごとの特色と帰国後の学校生活および社会生活における困難度を調べた。この結果、在外年数の長期化にもかかわらず、日本語環境の整備に伴い常に『日本向き』に生活する子どもが増加し、帰国後の困難度の低い帰国生が多いことが明らかになった。
 研究課題2では『帰国生の「受け入れクラス」に対する意識構造』を分析し、受け入れ形態(帰国生クラス・一般混入クラス・帰国生クラスを経て一般混入)や属性要因による差異を検討した。その結果、クラス意識として「友達との関係」「日本語運用力」「楽しさ・居心地のよさ」「積極的参加」「自由な自己表現」「在外経験の肯定的活用」「先生・友達からの認証」の7因子が見出された。また、多くのクラス意識では受け入れ形態や在外年数による有意差は認められず、属性のうち帰国後の年数・海外での在籍校・現地との関わりの深さなどにより規定されることが示された。
 研究課題3では『クラス意識の相互関連性』について、受け入れ形態別の因子間相関を比較するとともに、「楽しさ・居心地のよさ」に影響する要因とその受け入れ形態による差異を分析した。この結果、「在外経験の肯定的活用」はどのクラス意識とも相関が低く、文化のコードスイッチを日本側に切り替えることによってクラスに溶け込んでいる帰国生の姿が明らかになった。また、「楽しさ・居心地のよさ」にはいずれの受け入れ形態でも「友達との関係」「積極的な参加」等が顕在的に関与していたが、一般混入クラスでは「日本語運用力」が多くのクラス意識と高い相関を持ち、他の意識を通して潜在的に影響を及ぼしていることが示された。すなわち、帰国生のクラス意識は尺度平均値では差異がなくともその相互の関連性において大きく異なっており、特に一般混入クラスでは日本語力の低い生徒の指導に注意が必要であることが示唆された。

最終更新日 2007年3月11日