修士論文要旨


氏名

野原 ゆかり

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

日本語学習者の発話を「分かりやすい」と受けとめる要因
−一般日本人と母語話者日本語教師の評価の視点から−

要旨

(300字以内)

 日本語学習者の発話を「分かりやすい」と受けとめる要因を探るため、一般日本人と母語話者日本語教師(各50名)に対し、聴取実験を行った。刺激材料に学習者4名分のストーリー・テリングを使用し、質問紙の17の項目に5段階評定で回答してもらった。この評定結果を一般と教師についてそれぞれ因子分析を行った結果、一般日本人からは2つの要因(「内容」、「音声」)が、一方、日本語教師からは3つの要因(「意味的つながり」「言語使用の適切さ」「音韻的つながり」)が確認された。さらに、重回帰分析の結果、これらの要因のなかで「分かりやすさ」に影響を与えているのは、一般では「内容」、教師では「意味的つながり」であることが明らかとなった。ただし、「分かりやすさ」と各要因との構造を刺激材料ごとに検証した場合、教師のほうは構造のバランスに敏感であり、ひとつでも評価が低い要因があると、「意味的つながり」とともに、「分かりやすさ」に影響を与えていることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 本研究は、中上級日本語学習者の発話が「分かりやすさ」という点で、母語話者にどのように受けとめられ、また、その背景にはどのような要因があるのかを探索的に究明することを目的とした。これまでの研究で、母語話者の学習者の発話に対する受けとめ方は、一般日本人と日本語教師という属性により異なることが明らかにされている。そこで、先行研究の結果を踏まえ、本研究では一般日本人と日本語教師の比較を通して考察を行った。
研究にあたっては次の3つの課題を設定した。1.「分かりやすさ」を指標にした日本語母語話者の評価の視点は何が背景(要因)となっているか。2.「分かりやすさ」の評定に影響を与える要因は何か。3.課題2で明らかになった要因の構造は、「分かりやすさ」の評定値で異なるか。以上の課題を究明するため、方法には聴覚刺激と質問紙を用いた実験を採用した。まず予備実験1で、中上級レベルの日本語学習者9名から4コマの絵を用いたストーリー・テリングの発話を採取し、うち4名分を刺激材料として選定した。さらに、それを使用して、一般日本人と日本語教師(各4名)を対象に予備実験2を実施し、「分かりやすさ」の視点を抽出した。最後に、一般日本人と日本語教師(各50名)を対象に、予備実験2の結果をもとに作成した質問紙(17項目、5段階評定)と刺激材料を用いて本実験を実施し、評定結果を得た。そしてこの結果をもとに、まず課題1については、一般日本人と日本語教師のそれぞれについて因子分析をかけた。その結果、一般日本人では「分かりやすさ」の背景となる2つの因子(「内容」「音声」)、日本語教師では3つの因子(「意味的つながり」「言語使用の適切さ」「音韻的つながり」)が抽出された。次に課題2では、各因子が「分かりやすさ」へ与える影響を検討するため重回帰分析を行った結果、一般日本人では「内容」、日本語教師では「意味的つながり」が影響を与えていることが明らかとなった。最後に課題3では、課題2で明らかになった要因の構造が「分かりやすさ」の評定値で異なるかを、実験に用いた刺激材料(学習者4名分の発話)で検証した。その結果、一般日本人においては、「分かりやすさ」の得点の上位の刺激材料と下位の刺激材料とで要因の構造に違いは見られなかったが、日本語教師では、下位のなかで、特定の要因に対して目立って低い評価がされた場合は、「意味的つながり」という要因に加え、その要因も「分かりやすさ」の受けとめ方に影響を及ぼすということが伺えた。

最終更新日 2007年3月11日