修士論文要旨


氏名

小浦方 理恵

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

多義的基本動詞「(〜)たつ」の意味記述
−コア図式を使って−

要旨

(300字以内)

 本研究では、先行研究で明らかになった多義語習得問題点を解決するための語彙学習支援方法を考えることを目的とし、多義的基本動詞「(〜)たつ」を一つの事例として、コア図式による意味記述を行った。
 その結果、「(〜)たつ」の様々な意味は一つの図式で説明できること、慣用的表現の意味も「(〜)たつ」のコア図式で表せることを示した。また類義表現との意味的差異や、単純動詞と「〜たつ」を伴う複合動詞の意味的差異をコア図式によって説明した。
 さらに、本動詞「たつ」と複合動詞「〜たつ」の意味的つながりを明らかにすることで、本動詞と複合動詞後項の意味を分けて分析するのではなく、どちらの意味も一つのコア図式によって説明することが可能であることを示した。

要旨

(1000字以内)

 本研究は先行研究で明らかになった多義語習得の問題点を解決するための語彙学習支援方法を考えることを出発点として、「(〜)たつ」を一つの事例としてコア図式による意味記述を行ったものである。
 多義語習得研究では、多様な用法をつながりのあるものとして捉えられず、基本的な意味の習得で留まっていること、類義語との際がわからないこと、母語による負の転移があることが明らかになっている。以上の問題点を解決する方法として、認知意味論の考えを基とするコア図式論が有効な語彙学習支援ツールとして援用できるのではないかと考え、その基盤的研究として意味記述を行った。
 対象語とした「(〜)たつ」は初級レベルで導入される基本語でありながら、非常に多様な意味を持っている多義語である。また、超級の日本語学習者においても基本的な「(〜)たつ」の用法以外は使わないと言ったように、まとまった意味をつかむことが難しいと考えられることから、「(〜)たつ」を対象語として決定した。そして、多義的基本動詞「(〜)たつ」全体を包括する意味とその意味間のつながりをコア図式によって示すことを研究課題とし、分析を行った。
 「たつ」の分析データは『大辞林』など9冊の辞書に掲載されている全ての用例を対象とし、「〜たつ」は姫野(2003)「複合動詞リスト」、『複合動詞資料集』『逆引き広辞苑』に掲載されていた語を分析対象とした。また、歴史的な表現については、日本語母語話者にアンケートを行い、使用度の低い項目は分析から外した。
 分析の結果、「(〜)たつ」は4つの意味タイプに分けることができ、その意味タイプにはタイプ間とタイプ内の両者において、連続性が見られた。そして、コア図式に焦点化という認知的操作を行うことで、それら意味タイプが説明できることを示した。したがって、「(〜)たつ」のもつ様々な意味は、一つの図式で説明することが可能であり、慣用句として暗記するしかないと考えられがちな表現でも、「(〜)たつ」のコア図式で表しうることが明らかになった。また、「(〜)たつ」のコア図式を用いることで、類義表現との意味的差異や、単純動詞と「〜たつ」を伴う複合動詞の意味的差異、そして「(〜)たつ」という語が持つニュアンスについて説明できることを示した。さらに、本動詞と複合動詞後項の意味と分けて分析するのではなく、どちらの「たつ」の意味も一つのコア図式によって説明可能であり、本動詞「たつ」と複合動詞「〜たつ」の意味的つながりを明らかにした。

最終更新日 2007年3月11日