修士論文要旨


氏名

菅野 綾

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

児童を対象とした対話的問題提起学習に関する一考察

要旨

(300字以内)

 本研究は活動形態の異なる2つの対話的問題提起学習を対象に児童らの学習中及び学習終了1年後の意味づけとその変容について明らかにした。
 その結果、外国人児童の意味づけにはほとんど変容はなかったが、日本人児童の意味づけでは外国人児童について考える視点や自分が多言語多文化社会にいるという認識が窺えないという変容及び学習を問題提起のコードと認識できないという変容が見られ、言語多数派の日本人児童は学習時に得た学びが消えやすい可能性が示された。またその要因には日本人児童の置かれている環境(英語が身近である、多言語多文化性を身近に感じ難い状況にいる)及びコード提示のフィクション性が関連していることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 日本社会の多言語多文化化によって学校現場でも共生を目指した取り組みが求められ模索されている。そこで本研究では共生を目指した教育実践として注目される対話的問題提起学習に焦点をあて、年少者を対象とした共生への教育実践及び対話的問題提起学習の実践へ示唆を目指し、児童を対象とした対話的問題提起学習が何を実現したかを明らかにした。
 本研究では、コード提示の真正性、提起された問題の性質、問題に対する思考過程の3点で活動形態の異なる2つの対話的問題提起学習(学習@、学習A)を対象に、学習中及び学習終了1年後の意味づけを明らかにし、それがどのように変容するかを明らかにした。
 学習@では、実践時、日本人児童は日本で生活する外国人児童の状況や気持ちを理解する活動と意味づけ、外国人児童は日本人児童が自分たちの大変さを理解した活動と意味づけていた。1年後は、外国人児童が言葉の分からない環境における大変さを理解されたとの意味づけを行なった一方で、日本人児童は、言葉の分からない環境に置かれることの大変さを認識した活動との意味づけ、外国語や英語の難しさを認識した活動との意味づけが見られ、学習時と1年後の意味づけを比較した結果、日本人児童の意味づけには日本で生活する外国人児童への視点が見られないという変容が観察された。
 学習Aでは、実践時、日本人児童、外国人児童共に多言語多文化社会において異なる言語・文化背景を持つ者同士が関係を構築する際に自分はどうすべきかを考える活動と意味づけていた。1年後には、外国人児童全員及び日本人児童の一部は実践時と変わらず自身が多言語多文化社会において、異なる言語・文化背景を持つ者と関係を構築する際にどのようにすべきかを考える活動と意味づけていたが、日本人児童にのみ外国語が話せないことの大変さを感じた活動との意味づけ、単なるフィクションとの意味づけが見られ、学習時と1年後の意味づけを比較した結果、日本人児童の意味づけには児童自身が多言語多文化社会に存在しているという視点が無くなったこと、また学習Aを問題提起のコードと認識できないという変容が観察され、言語多数派児童は学習時に得た学びが消えてしまいやすい可能性が示された。また、その要因として(1)英語が身近であること(2)多言語多文化性を身近に感じ難い状況にいること(3)コード提示のフィクション性が関連していることが示唆された。

最終更新日 2007年3月11日