修士論文要旨


氏名

石井 佐智子

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

多義語・言い切りの「た」の習得研究

要旨

(300字以内)

 言い切りの「た」の習得における母語の影響を明らかにするために、上・超級と考えられる中国語母語話者(以下CS)、韓国語母語話者(以下KS)を調査対象者とし、質問紙調査を行ったところ、両者間に相違が見られた。そして、どんな場合に両者間で相違が見られるのかカイ二乗検定で明らかにし、翻訳資料、翻訳者による各言語での解釈、対照研究を照らし合わせながら、考察を進めていった。その結果、中国語、韓国語とも言い切りの「た」に対応しても習得に差異が見られた問題が見られた。これは心理的有標性(Kellerman1979)であると考えられ、この差異は、母語で変化後の状態、動作の過程に注目してしまい、日本語の視点が把握できていない為に見られたと考えられた。そして、この他に中国語と「た」が対応しない問題において差異が見られた場合もあった。ここでは、CSが中国語で解釈し、日本語の知識を活用して回答していることが窺われた。また、中国語とは対応しなくとも、KSと習得に差異が見られない問題も見られたが、これは「過去」や「過去の振り返り」など「過去」に関する問題であった。このことから、母語に対応しなくとも「過去」に関するものは母語の影響を受けにくく、習得に差異が見られないと考えられた。以上から、上・超級レベルの非母語話者であっても、言い切りの「た」の習得に母語の影響が見られ、森田(2001, 2002)で指摘されている話者の視点をつかむことは困難であることが窺われた。今後、言い切りの「た」における多義性の1つ1つがどのような関係で結びついているのか、その意味構造を明らかにしていくことが課題であると考えられる。

要旨

(1000字以内)

 機能語は初級の段階から重視されるものの、教育現場でその多義性を含め体系的には扱われていないようである。そこで、多義的な機能語である、言い切りの「た」を対象語とし習得研究を行うことにした。そして、言い切りの「た」における母語と習得の関係を明らかにするため、調査対象者として上・超級レベルの中国語母語話者(以下CS)、韓国語母語話者(以下KS)と2つの母語話者を選択し、質問紙調査を行った。調査結果をもとに、CSとKSとでは言い切りの「た」の習得に相違が見られるか(研究課題1)、その相違はどんな問題で見られるか(研究課題2)を明らかにし、習得と母語の関係を分析、考察した。
 まず、日本語母語話者の回答を指標に、言い切りの「た」を問う12問においてCS、KSがそれぞれ何問正解できたか、平均値差をt検定で比較した。その結果、CS、KSの得点の平均値には有意差が見られた(t(95)=3.05, p < .01, 片側検定)(研究課題1)。そして、どの問題で相違があるのか、各問題でカイ二乗検定を行ったところ、12問中6問で両者間に相違が見られた(研究課題2)。
 質問紙の翻訳資料、翻訳者による各言語での解釈と対照研究とを照らし合わせながら、考察を進めていくと中国語、韓国語がともに、言い切りの「た」と対応しても習得に差異が見られた問題が見られた。この差異は、母語で変化後の状態、動作の過程に注目してしまい、日本語の視点が把握できなかった為だと考えられる。そして、この他に中国語とだけ「た」と対応しない問題において差異が見られた場合もあった。ここでは、CSが中国語で場面を解釈し、日本語の知識を活用して回答していることが窺われた。さらに、中国語とは対応しなくとも、KSと習得に差異が見られない問題も見られた。これは「過去」や「過去の振り返り」など「過去」に関する問題であった。このことから、母語に対応しなくとも「過去」に関するものは母語の影響を受けにくく、習得に差異が見られないことがわかった。以上から、上・超級レベルの非母語話者であっても、言い切りの「た」の習得に母語の影響が見られ、森田(2001, 2002)で指摘されている話者の視点をつかむことは困難であることが窺われた。
 今後、言い切りの「た」における多義性の1つ1つがどのような関係で結びついているのか、意味構造を明らかにしていくことが課題であると考えられる。

最終更新日 2007年3月07日