修士論文要旨


氏名

佐野 香織

修了年度

2005年度(2006年1月提出)

修士論文題目

社会で生活する成人定住ブラジル人の日本語習得過程

要旨

(300字以内)

日本社会において人々との相互作用を通して主体的に言語構築するプロセスの一端を探るため、初期段階である成人定住ブラジル人1名の言語使用データ(2週間に1回/6ヶ月間の日本語母語話者との自然発話資料)を対象として、用法基盤モデル(Usage-Based Model)の立場から、言語構築の初期に焦点をあてて分析を行った。この結果、初期段階においては名詞の使用に大きく依存し動詞使用は限定的であること、またこの傾向の中で、使用頻度の高い一つの基本動詞『行く』のみに特化したパターン(動詞島構文)を使用し、抽象度の高い構文スキーマを見出しつつあることを指摘した。初期段階においては対象者が主体的に言語構築を進めている可能性が示唆される。

要旨

(1000字以内)

経済活動のグローバル化・少子高齢化に伴う労働力不足補完等から日本に定住する外国人問題は政策レベルとして取り上げられようとしているが、その実態は明らかになっておらず、支援活動も試行錯誤のうちに行われているのが実状である。本研究の目的は、言語的側面から、日本社会に定住する外国人が相互作用を通して主体的に言語を構築するプロセスの一端を探ることである。上記の対象者データには、Tomasello(2003)がL1習得で主張しているボトムアップ式の習得が見られた。本研究においても、Tomasello(2003)が理論的基盤とした、具体的で様々なサイズの使用例を基に言語を構築していく、とする用法基盤モデル(Usage-Based Model)(Langacker 1987, 2000)の立場から、従来研究の対象にされてこなかった初期段階に焦点をあて、観察・分析を行った。

日系3世の家族と共に来日し、日本社会・日本語話者との接触経験の少ないブラジル人1名を対象に、6ヶ月間、2週間に1回約1時間、外国人支援活動の場における日本人参加者との自然会話を録音し、文字化した資料をデータとした。分析ソフトKHcorderを用い、頻度、使用率、コロケーション情報等を分析した。

研究課題として、@日本社会で生活する定住成人ブラジル人の言語使用初期段階ではど

のような傾向が見られるか、A研究課題@の言語使用初期段階では、様々なサイズの言語使用のうちどのようなものが見られるか、の2点を上げた。分析・考察の結果、研究課題@においては、母語話者の発話傾向と比較しても、本研究の対象者は調査期間全体を通して名詞句を中心とした使用傾向が見られ、動詞の使用はトークン頻度が少なく、非常に限定的な使用であることが分かった。また、研究課題Aにおいては、このような動詞限定使用傾向の中で、『行く』のみが、トークン頻度・タイプ頻度共に高く個性的な使用をみせたことから『行く』の使用詳細を分析した結果、「〜に行く」というパターンを対象者が見出していることが見られた。

 以上の結果について、本研究の対象者は『行く』に特化した固定的なパターン=構文パターン使用の段階であること、また、この構文パターンが抽象化された構文スキーマを見出しつつある可能性があることを示した。これらの結果は、用法基盤モデルの立場からTomasello(1992, 2003)が提示した動詞島構文の段階にあり、抽象的なスキーマ化が進んだ構文スキーマ形成段階に進みつつある可能性が指摘できる。初期段階においては、対象者が相互作用を通して主体的に構文パターンを構築していく一端を示せたといえる。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 


最終更新日 2006年3月20日