2002年度修士論文要旨


氏名

伊藤 芳弥

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

チャットの会話における開始部と終結部 −友人同士による一対一のチャットを対象として−

要旨

(300字以内)

本研究は、日本語母語話者のチャットの会話の開始部と終結部の特徴を明らかにするため、全体機構、開始部と終結部の構造及びその構成要素、それぞれの移行部分について、電話会話の分析の枠組みを援用して分析を行い、結果を電話会話の先行研究の結果と対照して要因を検討した。その結果、電話会話との類似点も多いが、文字媒体であることを始めとするチャットの特性が影響し、2つの話題が同時進行するなど電話会話には現れないチャット独自の会話が成立していた。今後の課題としては、主要部も含めたチャットの会話のメカニズムの解明、会話の属性も含めた要因の特定、非母語話者と母語話者によるチャットの会話を解明などが挙げられる。

要旨

(1000字以内)

本研究では、チャットの会話の開始部と終結部の特徴を明らかにすることを目的として分析を行った。データとして、日本語母語話者のチャットの会話63件(男性同士31件、女性同士32件)を用いた。
チャットの開始部及び終結部の研究は限られている。一方、電話は一対一のチャットと共通する場面特性が多く、電話会話の研究では、既に一定の知見が得られている。そこで本研究では、電話会話の分析の枠組みを援用し、全体機構、開始部と終結部の構造及び構成要素、各移行部分について分析し、結果を電話会話の先行研究の結果と対照して要因を検討した。
 分析の結果、概ね開始部・主要部・終結部からなる全体機構が認められたが、開始部と終結部の省略もみられ、電話会話とは異なる結果であった。開始部の構成要素は、電話会話の構成要素の全てを含み、順序もほぼ同じである。終結部のPre-closing声明の構成要素、「人間関係の再確認」の構成要素については、電話会話に現れるほとんどが観察されたが、Pre-closingの声明が明示的であるということは電話会話とは異なる。また、開始部、終結部とも、新たな構成要素が観察された。終結部の主導権がかけ手にあること、女性同士の終結部の方が長くなる傾向にあること、終結部の前の「場作り作業」などは電話会話と同じ結果であった。開始部から主要部への移行は非明示的であり、これは用件のない会話が多かったことの影響だと考えられる。一方、主要部から終結部への移行は明示的に移行するが、これは文字情報のみで終結への意思を伝えなければならないためだと思われる。また、移行部分において、2つの話題の同時進行が観察され、これは、文字媒体であることの影響によるチャット特有の話題の展開方法だと考えられる。
以上の通り、電話会話との類似点が多く、電話会話の分析の枠組みをチャットの会話の分析に援用可能であることが示されたが、文字媒体であることなどチャットの特性が影響し、チャット独自の会話が成立していた。今後、要因を特定していくことで、普遍的な行動が明らかになり、会話の本質に迫ることができると思われる。また主要部の分析を行い、チャットの会話全体のメカニズムを解明する必要がある。その上で、非母語話者と母語話者によるチャットの会話を母語話者同士のものと対照していくことにより、日本語教育にチャットを活用するための示唆が得られると考える。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

【研究動機・目的】
海外日本語学習者にとって、母語話者との接触場面を増やすことは重要であり、その一つの方法としてチャットの活用は有効だと考えられるが、学習者はもとより、母語話者のチャットの会話のメカニズムを調べた研究自体が少ない。そこで日本語母語話者同士のチャットを取り上げ、本研究では一対一のチャットの会話の開始部と終結部の特徴を明らかにすることを目的として分析を行った。
【研究課題】
課題1 :全体機構はどのように構成されているか明らかにする。
課題2-1:開始部について構成要素及びその構造がどのようなものか明らかにする。
課題2-2:開始部から主要部への移行部分がどのようなものか明らかにする。
課題3-1:終結部について構成要素及びその構造がどのようなものか明らかにする。
課題3-2:主要部から終結部への移行部分がどのようなものか明らかにする。
【研究方法】
<調査に用いた媒体>MSN Messenger
<調査資料>@チャットの会話資料:同性の友人同士による会話63件
(男性31件、女性32件)
      A質問紙調査資料:調査対象者の属性、チャットの相手との関係、会話の属性等
<分析方法>電話会話の枠組み、分析の観点・方法を用いて分析し、結果を電話会話の先行研究と比較した。
【結果と考察】
課題1:電話会話と同様、開始部・主要部・終結部からなる全体機構が概ね認められた。しかし、電話会話では報告されていない開始部と終結部の省略が観察された。
課題2-1:電話会話に現れる開始部の構成要素の全てが観察されたが、チャットは発言者名が表示されるため「自己提示ム認定」はほとんど観察されなかった。
課題2-2:開始部から主要部への移行は非明示的に行われる。これは、本研究では、用件のない会話が多かったためと思われる。また、開始部の話題と主要部の話題が同時進行する移行パターンもみられた。これは、2つの話題が同時に出された場合、文字によるやりとりが画面に残るため同時進行が可能になるもので、電話や対面会話では見られないチャットの特性が影響した独自の話題の展開方法だと考えられる。
課題3-1:終結部のPre-closing声明の構成要素、人間関係の再確認の構成要素は電話会話とほぼ同じものが観察されたが、Pre-closing声明が明示的に行われる等、電話会話と異なる傾向もみられた。また、終結部の主導権がかけ手にあること、終結部の長さが女性同士の方が長くなることは、電話会話と同じ結果であった。
課題3-2:主要部から終結部への移行部分は明示的に行われる。ディスコースマーカーが伴うことは、電話会話と同じであるが、Pre-closing声明が明示的であることは、異なる結果である。チャットの場合、文字情報だけで会話を終了する必要があるため、より明示的に終結への意思を示す必要があるからだと推測される。また、開始部の移行部分と同様、主要部の話題と終結部の話題が同時進行する移行パターンがみられた。
 以上からチャットの会話は電話会話と共通点も多く、電話会話の枠組みを用いて分析可能であることが示されたが、全く同じではなく、チャットの特性の影響により独自の会話が作られていることが観察された。
【今後の課題】
チャットを日本語教育に活用していくためには、今後課題として、@チャットと電話の会話について会話の属性を考慮に入れた分析による要因の特定、A主要部の分析によるチャットの会話の全体機構の解明、B母語話者と非母語話者によるチャットの会話の全体機構の解明、などが挙げられる。
【主な参考文献】
Hopper,R. (1992). Telephone conversation. Bloomington: Indiana University Press.
岡本能里子(1991)「会話終結の談話分析」『東京国際大学論叢商学部編』44, 東京国際大学, 117-133.
Schegloff, E. A. & Sacks, H. (1973). Opening up Closings, Semiotica, 8, 289-327.

 

氏名

岩井 朝乃

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

多文化クラスにおける日本人学生と留学生の相互認識とその変化 −学生の語りに見られる「違い」と「相似」

要旨

(300字以内)

本研究は多文化クラスに参加した日本人学生と留学生の相互認識に焦点をあて異文化理解の進行の一端を明らかにすることを目的とし、日本人学生12名、留学生11名に半構造化インタビューを行なった。「違い」に関する発話からカテゴリーを見出し、ベネット(1986,1993)のモデルを援用して異文化センシティビティ発達の観点から分析を行なった結果、1)日本人学生は留学生に対する「違いの認識」と「相似性の強調」を語り、異文化センシティビティモデルの「違いからの防衛」から「違いの最小化」へと自文化中心段階における発達を経た可能性があること、2)留学生は日本人学生に対する「違いの認識」を語り、違いを実感する段階から異文化センシティビティモデルの文化相対的段階である「違いの受容」「違いの適応」にまたがる認識を得ていること、3)留学生による他の留学生に対する「違いの認識」、「東アジアと東アジア以外の相違」というカテゴリーが見出されたことから、多文化クラスが日本対外国、日本人対留学生と、二項対立的にのみ捉えられる場ではないこと、の3点が示された。以上から日本人学生と留学生は異文化センシティビティにおいて異なった段階において発達を得ていること、またベネットの異文化センシティビティモデルにない、否定的評価を伴わない「違いの認識」段階の存在が示唆された。

要旨

(1000字以内)

留学生受入れの「国際理解」の理念が留学生と受入国の人々との「相互通行的な学習過程」へと変化している(江淵1991)。近年日本の大学で盛んに行なわれている「多文化クラス」は受入国の日本の学生と留学生との双方向的な学習を目指したものである(岡崎1996)。
本研究はA女子大で行なわれた多文化クラスに参加した日本人学生と留学生の相互認識に焦点をあて、多文化クラスでの異文化理解の進行の一端を明らかにすることを目的とする。両者の間に存在する「違い」と「相似」がどのように認識され解釈されるのかを明らかにできれば、多文化クラスの教育的意義をより具体的な形で提示することができよう。
研究方法にはグラウンデッドセオリーを用い、授業に参加した日本人学生12名、留学生11名に対する半構造化インタビューを行なった。両者の「違い」に言及する発話に焦点を当ててカテゴリーを見出し、更にベネット(1986,1993)の「異文化センシティビティモデル」を援用して異文化センシティビティ発達の観点から分析を行なった。
分析の結果、以下の3点が明らかになった。
1) 日本人学生の留学生に対する語りから「違いの認識」と「相似性の強調」が見出された。認識した「違い」を「日本人の間の違い」「個人間の違い」と同等のものと解釈することによって「相似性」が強調される傾向があった。異文化センシティビティモデルの「違いからの防衛」から「違いの最小化」へと自文化中心段階における発達を経た可能性が示唆された。
2) 留学生の日本人学生に対する語りでは「違いの認識」が共通しており「婉曲な表現」「受身な姿勢」が日本人学生の特徴として語られた。また「違いの認識」から「日本人の特徴の理解」を語る者、自文化の枠組みによる判断の保留と態度の調整を行なう者がおり、違いを実感する段階から異文化センシティビティモデルの文化相対的段階である「違いの受容」「違いの適応」にまたがる発話が見られた。
3) 日本人学生と留学生以外のカテゴリーとして留学生による他の留学生に対する認識としての「違いの認識」、学生の多様な背景を反映した「東アジアと東アジア以外の相違」というカテゴリーが見出されたことにより、多文化クラスが日本対外国、日本人対留学生と、二項対立的にのみ捉えられる場ではないことが示された。
以上から日本人学生と留学生はレディネスにおいても様々な面で大きく異なるが、異文化センシティビティにおいても異なった段階において発達を得ていると考えられる。更に異文化センシティビティモデルに当てはまらないカテゴリーの出現から、防衛反応や否定的評価を伴わない「違いの認識」段階がある可能性が示唆された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

【研究目的】 近年日本の大学で留学生と日本人学生とが共に学ぶ「多文化クラス」が多く実践されている。多文化クラスでは学生間の相互作用が重要視されているため、学生同士がどの様に互いを認識し、インパクトを受けているのかを探ることが授業の教育的効果を明らかにする上で必要である。本研究は多文化クラスに参加した日本人学生と留学生の相互認識、即ち両者が「違い」をどのように認識し、解釈していくのかに焦点を当て、両者の出会いと交流がもたらす異文化理解の進行の一端を明らかにすることを目的とする。研究課題は以下の3点である。
1) 多文化クラスに参加した日本人学生の留学生に対する認識、どのように意味付けるのか。
2) 多文化クラスに参加した留学生の日本人学生に対する認識、どのように意味付けるのか。
3) 多文化クラスに「日本人学生」対「留学生」以外の認識カテゴリーはあるか。どのようなものか。
【研究方法】
半構造化インタビューによるデータ収集。グラウンデッドセオリーによる分析。日本人学生の留学生に対する発話、留学生の日本人学生に対する発話、「日本人学生」「留学生」という枠組みによらない他の学生に対する発話を抽出してカテゴリー化し、異文化センシティビティモデル(Bennett,1993)の観点から再分析。
インタビュー対象者:2002年度4月−7月 A女子大学「基礎ゼミ」(多文化クラスの特徴を有している)を受講した学生の内、協力が得られた日本人学生12名 留学生11名
【主な結果】
1) 日本人学生は留学生に対する「違いの認識」と「相似性の強調」を語った。「相似性」が「違い」より強調される傾向があり、異文化センシティビティモデルの「違いからの防衛」から「違いの最小化」へと自文化中心段階における発達を経た可能性がある。
2) 留学生は日本人学生に対する「違いの認識」を語り、授業での接触による「日本人の特徴の理解」を示す学生もいた。違いを実感する段階から異文化センシティビティモデルの文化相対的段階である「違いの受容」「違いの適応」にまたがる認識を得ている。
3) 留学生の他の留学生に対する「違いの認識」、多様な文化的背景を有する学生間での「東アジアと東アジア以外の相違」というカテゴリーが得られたことから、多文化クラスが二項対立的にのみ捉えられる場ではないことが示された。
以上から、日本人学生と留学生は異文化センシティビティにおいて異なった段階において発達を得ている可能性、ベネットの異文化センシティビティモデルにはない、否定的評価を伴わない「違いの認識」段階の存在が示唆された。
【今後の課題】 今後は会話場面の分析を行い、本研究で得られた認識に関する結果と実際の行動とを合わせて考察し、より複雑な現実の理解を深めることが望まれる。また条件の異なる多文化クラスにおける研究を行うことによって、一般化の可能性のある知見と個別性の高い知見とを識別していく必要があろう。
【主な参考文献】
A.Strauss, J.Corbin(1990) Basics of Qualitative Research: Grounded Theory Procedures and Technique Sage Publications New York
Milton.Bennett(1993)モTowards ethnorelativism: A developmental model of intercultural sensitivityモ R.M.Paige(Ed) Education for the intercultural experience Intercultural press
土屋千尋(代表)2000「多文化クラスの大学間及び地域相互交流プロジェクトの実施と評価に関する研究」平成9−11年科学研究費補助金基盤研究(C)(1)研究成果報告書

 

氏名

呉 英阿

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

母語によるピア・レスポンスの効果と日本語能力の異なる学習者同士の支援のあり方 −韓国人日本語学習者4人を対象にした事例研究を通して

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

小田 珠生

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

ある中国人中学生に対する作文過程での支援の試み

要旨

(300字以内)

作文生成を問題解決の過程と捉え、中でも中国人中学生と支援者2人(日本人と母語話者、支援は主に日本人)の協働による作文過程の事例を記述・分析した。その結果、@半数は支援者のイニシアティブにより問題解決の相互交渉が開始されていたA学習者の意識は文字・語彙・作文文法・作文形式等の低次の問題に大きく傾いているが、支援者の存在により高次の問題解決も試みていたBI→R→(F)1回の相互交渉で問題が解決する事は殆どなかった。以上より、外国人生徒と支援者の協働による作文学習に意義が認められ、さらに、L1による作文学習方法の追求や、母語話者の積極的参加を得られる協働のあり方の見直しの必要性などが示唆された。

要旨

(1000字以内)

日本における外国人児童・生徒が急増している。本研究では、四技能の中で最も難しいとされる作文の生成を問題解決の過程と捉え、中でも一人の作業ではなく外国人生徒と支援者の協働による作文過程に注目し、日本人の推敲方略と照らし合わせて、何が行われているかの事例を調べる。そして、彼らへの支援のあり方に対する何らかの示唆を得ることが目的である。
データは、主に2002.4〜9の支援クラス7回での協働作文中(各約120分)の学習者(中国出身/中2/2000.12来日)と支援者二人(日本人と中国語話者、支援は主に日本人)の発話のトランスクリプト・支援中のメモである。課題と方法を@「どのように問題を特定するのか」⇒発話の回数と長さ、話題の数、話題が始まるきっかけの形を調べる(甲斐1996、J.Mch.Sinclair&.M.Coulthard1975)A「特定された問題は何か」⇒問題の内容、学習者が支援者に支援を求める形を調べる(内田1989、村岡1999)B「それらの問題はどのようにして解決に至ったか」⇒学習者と支援者の協働の参加構造を調べる(J.Mch.Sinclair&.M.Coulthard1975)とし、分析した。結果は次の通りである。@協働作文中、学習者は積極的に発話をし、学習者の発話で始まる話題ユニットが全体の大半を占めたが、学習者がイニシアティブを取って協働が始まったものは半数であった。即ち、支援者の存在により、学習者が抱えている問題がより明確になる可能性がみられた。A生じた問題は、原稿用紙の使い方等、外国人生徒に特有と思われる問題を含め低次の問題(文字・作文文法・作文形式・語彙)が、高次の問題(接続・重複・文脈調和)より多くを占めた。低次の問題に意識が傾き、余力を高次な方略に割り当てることが難しくなっていると考えられる。そして、Yes/No・Which質問を抑え、What/How質問が半分を占めた。現時点の日本語能力では、一人で表現するのが難しいことを、支援者と協働して作文しようとしていると言える。BI→R(→F)1回の相互交渉で問題が解決した例は殆どなかった。相互交渉の内容より、支援者は、辞書的な役割以上の役割を担っている可能性がみられた。今後の課題は、更に効果が期待できる第1言語での作文学習の方法の追及と、推敲を含む作文過程の分析である。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

木村 美希

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日本語非母語話者と母語話者を触媒する実習生の発話の分析 −触媒者はどのようなストラテジーを行使するか−

要旨

(300字以内)

グループ活動に参加した日本語非母語話者と母語話者の間に双方向の学習を創造するための触媒として機能することを目指す実習生教師のグループ活動中の発話の分析を行い,触媒者が行使するストラテジーとして「参加支援」,「話題展開」,「言語的支援」,「心理的支援」という4種類を抽出した。さらに,これらのストラテジーを行使する際の発話機能とストラテジーを行使する対象者について分析することにより,教師が日本語非母語話者と母語話者の触媒として機能することの実態を明らかにできたと考える。また,母語話者触媒者と非母語話者触媒者のストラテジーの行使の仕方を比較対照した結果,両者が異なる役割を果たしながら母語話者と非母語話者の双方向の学習に寄与していることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

多言語多文化共生社会の実現を目指す日本語教育においては,教師に新たな役割が求められる。岡崎(2001)はその一つとして,日本語非母語話者(以下,NNS)と母語話者(NS)の間に双方向の学習を実現する「触媒者(ファシリテーター)」としての役割を挙げている。本研究は,NNSとNSが参加した大学院の日本語教育実習の教壇実習クラスにおけるグループ活動を取り上げ,教師がNNSとNSの触媒として機能することの実態を教授ストラテジーという点から明らかにしようと試みたものである。研究課題は以下の3つである。
@グループ活動における触媒者の発話から,どのようなストラテジーが抽出されるか。
A触媒者はストラテジーをどのように行使しているか。a)ストラテジーを行使する際の発話機能と,b)ストラテジーを行使する対象者を観点として明らかにする。
BNS触媒者とNNS触媒者とでは,ストラテジーの行使の仕方に違いが見られるか。
本研究における触媒者とは,具体的にはグループ活動に参加した参加者(NNSとNS)の間に双方向の学習を創造するための触媒として機能することを目指した実習生教師のことを指し,実習生教師のグループ活動中の発話を会話分析の手法を用いて分析した。その結果,主に以下のことがわかった。
@触媒者が行使するストラテジーとして「参加支援」,「話題展開」,「言語的支援」,「心理的支援」という4種類が抽出された。
A触媒者はストラテジーを行使する際,参加者に情報を要求するだけでなく触媒者自身が持っている情報を参加者に提供したり,参加者が提供した情報を共有したことを表示したりして,グループの参加者の一員として話し合いを進展させている。
B触媒者が言語的支援ストラテジーを行使する際,NNSだけを対象として言語産出や言語理解のサポートをするのではなく,NSも対象としてNNSと話す際の日本語を示している場面が確認された。
CNS触媒者とNNS触媒者のストラテジーの行使の仕方は,ストラテジーを行使する対象者,ストラテジーを行使する際の発話機能および発話内容の3点において異なる傾向が見られた。
これらの結果から,教師がNNSとNSの触媒として機能することの実態を明らかにすることができたと考える。また,NS触媒者とNNS触媒者が異なる役割を果たしながらNSとNNSの双方向の学習の創造に寄与していることが示唆された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

桑田 奈央子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

多様性を追求した多文化交流教室の実践と意義 −参加した子ども達は何を経験したか−

要旨

(300字+α)

本研究では、多様な言語・文化的背景をもつ子ども達を対象とした多文化コミュニケーション教室をフィールドとし、参加した子ども達へのインタビューや同教室でのビデオデータをもとに、1)多様性を追求するというねらいが活動の中でどのように実践され、また2)参加した子ども達にどのような意義をもたらしたのかについて考察した。
1)結果としては、多様性を追求を目指した活動を通して、お互いのリソースの活用や協働の仕方を子ども達に考えさえる機会を提供できたといえる。また、更なる実践に向けての改善点としては、活動に多様なリソースを組み込むことに加えて、子ども達一人一人の伝え合おうという意識による双方向的な協働を目指し、活動を更に吟味していくことが指摘された。
2)さらに参加した子ども達が同教室をどのように経験したかという視点で、子供たちの様々な経験のケースを記述したところ、言語・文化的背景や、年齢、個性など様々な面において多様である子供たちの得たものは一人一人に異なっており、母語に誇りを得たケース、コミュニケーションについての考えを深めたケ―ス、色々な国の子供と協力できたことに新しい発見を見出したケースなどが見られた。そこから明らかになった更なる実践への課題としては、日本語の境界をさらになくし、言語の多様性を更に追求していくことがまず一つ挙げられた。もう一点としては自分自身や言葉、コミュニケーションについて捉え返すようなより深い経験を、子ども達一人一人にいかに提供していくことができるかを更に追求していくことであった。

要旨

(1000字以内)

『多文化コミュニケーション教室』(以下、多文化教室)は、多様な言語・文化的背景をもつ子ども達を対象とし、体験的な交流学習を通じてお互いの多様性を認め合うことが目指された場であった。本研究ではこれをフィールドとし、参加した子ども達へのインタビューや同教室での活動のビデオ録画資料をデータとして、多様性の尊重を追求した教室が子ども達にもたらす意義を考察した。
『多文化教室』では、活動の中に多様なリソースを組み込むことによって、子どもたち一人一人に活躍できる場を与えることが目指された。本研究では多様なリソースの活用という観点から特に工夫されていた「オリエンテーリング」という活動を取り上げ、活動の中の各ステージにおける子どもたちの協働の様子を記述し、活動のねらいがどのように実現されたかを考察した。結果としては、どの子どもにも自分のリソースを活用して活躍できる場が与えられていたことが観察され、活動の中に多様なリソースを盛り込むことの意義が確認された。また、はじめのうちはお互いの言語文化的多様性になかなか意識が向かなかった子ども達が、活動の中で徐々にそのような意識をもつようになり、リソースを活用していく彼らの協働作業がスムーズに行われるようになっていったことが観察された。このことから、一つの活動の中に様々な段階を設けることの有効性が評価点として挙げられた。また更なる実践に向けての改善点としては、活動に多様なリソースを組み込むことに加えて、子ども達一人一人のお互いに伝え合おうという意識による双方向的な協働の実現を目指し、活動を更に吟味していく必要性が指摘された。そのためには、教室のプログラム全体を見据え、結果的に子ども達に何を気づかせたいかを念頭に置き、一つ一つの活動を段階的に組んでいくことが示唆された。
『多文化教室』は、その多様性の尊重を追求する場の特質から、参加した子ども達にもたらした意義にも多様な可能性があった。本研究ではその多様な可能性を探るために、参加した子ども達が同教室をどのように経験し意味付けていたかという視点で、子供たちの様々な経験のケースを記述した。言語・文化的背景や、年齢、個性など様々な面において多様である子供たちの得たものは一人一人に異なっており、母語に誇りを得たケース、コミュニケーションについての考えを深めたケ―ス、色々な国の子供と協力できたことに新しい発見を見出したケースなどが見られた。一人一人の子供がそれぞれの段階や意識をもってこの教室に参加し、それぞれの意義を見出していたことが分かった。今後の実践へ向けての課題としては、日本語、日本人という境界が意識された子どものケースがあったことを踏まえ、日常的に蓄積されたと考えられる日本語や日本人に対する特別なプレッシャーをこのような交流教室でどのように対処していけるかという点を更に考慮していくことであった。もう一点としては、子ども達の多様な参加の形を認める中で、自分自身や言葉、コミュニケーションについて捉え返すようなより深い経験を子ども達一人一人にいかに提供していくことができるかを、更に追求していくことであった。
本研究が、今後の実践への足がかりとなり、多様性の尊重を追求したこのような試みが更に広がっていくことを期待したい。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

【研究動機・目的】
@ 学校や社会の課題に応えていく試みの一つとして実践された、多様な背景を持つ子ども達の交流教室を取り上げ、(フィールド)
A そこに参加した子ども達に焦点を当てて、(視点)
B そのような実践の意義、限界を明らかにするとともに、(分析結果と考察)
C 多様性を追求した教室創りへの具体的な示唆を導き出す。(まとめと示唆)
【研究方法】
フィールド:多文化コミュニケーション教室と称された、昨年度の実習子どもクラス
  特徴)「子ども達に多様な言語、文化や多様なコミュニケーションについて体験的に学ぶ機会を提供する」ことが大きな目的とされ、多様性を追求した教室作りが目指された場であった。
 データ:インタビュー、ビデオ録画資料など
【考察視点】本研究では、多様な言語・文化的背景をもつ子ども達を対象とした多文化コミュニケーション教室をフィールドとし、参加した子ども達へのインタビューや同教室でのビデオデータをもとに、1)多様性を追求するというねらいが活動の中でどのように実践され、また全体としてこの実践が2)参加した子ども達それぞれにどのような意義をもたらしたのかについて考察した。
 1)活動の中の多様なリソースと子ども達の協働行為
 2)参加した子ども達の教室に対する意味付け
【考察結果】
1)結果としては、多様性の追求を目指した活動を通して、お互いのリソースの活用や協働の仕方を子ども達に考えさえる機会を提供できたといえる。また、更なる実践に向けての改善点としては、活動に多様なリソースを組み込むことに加えて、子ども達一人一人の伝え合おうという意識による双方向的な協働を目指し、活動を更に吟味していくことが指摘された。
2)さらに参加した子ども達が同教室をどのように経験したかという視点で、子供たちの様々な経験のケースを記述したところ、言語・文化的背景や、年齢、個性など様々な面において多様である子供たちの得たものは一人一人に異なっていた。そこから明らかになった更なる実践への課題としては、日本語の境界をさらになくし、言語の多様性を更に追求していくことがまず一つ挙げられた。もう一点としては自分自身や言葉、コミュニケーションについて捉え返すようなより深い経験を、子ども達一人一人にいかに提供していくことができるかを更に追求していくことであった。

 

氏名

櫻井 陽子

修了年度

2002年度(2002年9月提出)

修士論文題目

多文化クラスにおける協働的学習 −参加者の関わり合いをめぐって−

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

朱 桂栄

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

第二言語環境での教科学習支援における母語の活用 −来日まもない外国人児童の「国語」学習において

要旨

(300字以内)

本研究は、中国人児童A君の来日3ヶ月目から2ヶ月間の「国語」の学習における母語活用の事例を詳細に記述した。母語先行学習での読解活動を通して、子どもが母国で育てられてきた言語面・認知面の能力を第二言語環境での継続的発達の可能性が示された。母語先行学習は、日本語による学習に「言葉の理解」と「教材文の内容の理解」の手かがりが提供できたことが分かった。日本語による教科学習場面で母語話者支援者はA君にさまざまなヒントを与える形でサポートした。A君も問題解決のための手段として母語を使い、主に母語で「確認要請」を行なったことが分かった。来日半年未満のA君の事例から第二言語による教科学習における母語活用の必要性、可能性及び有効性が示された。

要旨

(1000字以内)

本研究は、中国人児童A君の来日3ヶ月目から2ヶ月間の「国語」の学習における母語活用の事例を詳細に記述・検討したものである。本研究の三つの課題の結果を以下に示す。
研究課題1「母語先行学習は子どもの母国で培ってきた言語面・認知面の能力を継ア的に発達させることができるのか」についてAA君は母語先行学習場面で「国語」の教材文の母語訳文を材料に、学年相当と考えられる文章の読解活動を通して、@文章の構成や表現法に関する既有知識の活性化、A因果関係に関する思考の深まり、B人物の心情に関する豊かな想像の展開、C言葉の理解の明確化が見られ、そして日本語だけでは理解できないD抽象的な学習内容への理解も可能となったことが本研究により明らかにされた。このような母語による学習活動に取り組むことは、子どもがそれまで母国で育てられてきた言語面・認知面の能力を第二言語環境で継続的に発達させる可能性を示唆している。
研究課題2「母語先行学習は日本語による学習にとってどのような手がかりが提供ナきるか」について、「日本語の言葉の理解」と「教材文の内容の理解」の手かが閧ェ提供できたことが明らかにされた。母語先行学習での言葉の説明、母語先行学Kの内容との関連付け、母語話者支援者からのヒントが手がかりとなって子ども自身によって日本語を理解した場合があったことが分かった。そして、「教材文の内容の理解」にとっての手がかりについて、教材文の意味をとらえるとき、産出するとき、内容理解の一貫性において、母語先行学習の想起が窺われた。母語先行学習は、子どものスキーマの獲得だけではなく、主体的に日本語による教科学習に取り組む学習意欲を引き出すことにも役立つことを示唆した。
研究課題3「日本語による学習場面で、母語話者支援者と子どもはどのように母語使っているのか」について、母語話者支援者の母語発話は、「伝え」、「ヒント」、「説明要請への対応」、「確認要請への対応」などの機能を果たし、翻訳による一方的な教え込みではなく、母語先行学習A君の持っている日本語知識、A君の経験を活用しAA君自らが答えを出せるようにさまざまなヒントを与えていることが示された。A君が母語話者支援者からのヒントを受け、自分自身の力で日本語による教科学習の課題に取り組む姿が観察された。そして、日本語による教科学習場面でA君は自発的に母語を問題解決のための一つの手段として利用していることが分かったBA君が主に自分の理解や産出の正しさを明示的あるいは暗示的に「確認要請」するために母語で発話していることも明らかにされたBA君の自発的な母語発話行為から、外国人児童の第二言語による教科学習をする際に積極的に仮説を立て、思考を進める能動的な学習姿勢が窺える。
来日半年未満フA君の事例から「教科・母語・日本語相互育成学習」モデルに基づく教科支援が子どもの言語面・教科学習面での多様なニーズを満たし、第二言語による教科学習における母語活用の必要性、可能性及び有効性を示したと言えよう。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

武田 知子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日本語教師の成長 −享受能力の形成と職業的アイデンティティの視点から−

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

単 娜

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得に関する研究

要旨

(300字以内)

本研究は、中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得状況における体系的な特徴を見出すことを目的に、ダイクシスと照応を統合した観点から、中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得状況を、日本語母語話者の指示詞の使い分け状況に照らし合わせながら分析を試みた。その結果、次のような知見が得られた。(1)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって習得しにくい文法項目であり、習得に困難な点がある。(2)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得順序に結びつく難易度順序がある。(3)中国人学習者の使い分けルールとして、母語の中国語に関わるルールと関わらないルールがあり、そのいずれにおいても、日本語母語話者と一致するルールもあれば、独自に作ったルールもある。

要旨

(1000字以内)

本研究は、中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得状況における体系的な特徴を見出すことを目的に、ダイクシスと照応を統合した観点から、中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得状況を、日本語母語話者の指示詞の使い分け状況に照らし合わせながら、@指示詞「コ・ソ・ア」の使い分け傾向、A指示詞「コ・ソ・ア」の難易度順序、B指示詞「コ・ソ・ア」の習得に影響を及ぼす要因、C中国語指示詞との対応、という4つの側面に分けて、統計処理を行った上で分析を試みた。その結果、次のような示唆が得られた。 まず、@指示詞「コ・ソ・ア」の使い分け傾向について得られた示唆は次の3点である。(a)中国人学習者に「ソ」と「ア」の使い分けに戸惑いが見られ、結果として誤用に結びつきやすい。(b)化石化する誤用パターンが存在する可能性があり、誤用の原因にソ系の過剰般化が考えられる。(c)中国人学習者が独自の使い分けルールを用いていることが推測できる。 次に、A指示詞「コ・ソ・ア」の難易度順序について得られた示唆は次の2点が挙げられる。(d)本研究で明らかにされた難易度順序を中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」における全体的な習得の道筋として考えるという仮説が設定できる。(e)純粋な照応用法のソ系、また間接状況的ダイクシス用法のア系において、特定の指示詞条件と結びつく難易度順序があることが確認され、指示詞における学習者の使い分けルールがある。 また、B習得状況に影響を及ぼす要因について得られた示唆は次の2点である。(f)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって難しい項目である。(g)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得に影響を及ぼす要因として、日本語能力、日本語学習歴のほかに、ストラテジーも挙げられる。 最後に、C中国語指示詞との対応について得られた示唆は次の4点が挙げられる。(h)中国人学習者の使い分けルールには、日本語能力を問わず、母語の中国語に関わるものと関わらないものがある。(i)純粋な照応用法のソ系においては、中国語の指示詞の使用原則に関わらない使い分けルールがある。(j)間接状況的ダイクシス用法のア系においては、中国語の指示詞と対応しながら使い分けるというルールがある。(k)中国人学習者の使い分けルールには、日本語母語話者と一致するものもあるが、独自に作ったものもある。 以上の(a)〜(k)の示唆をまとめると、本研究から得られた知見としては、次の3点である。 (1)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって習得しにくい文法項目であり、習得に困難な点がある。(2)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得順序に結びつく難易度順序がある。(3)中国人学習者の使い分けルールとして、母語の中国語に関わるルールと関わらないルールがあり、そのいずれにおいても、日本語母語話者と一致するルールもあれば、独自に作ったルールもある。

要旨

(2000字以内)

日本語指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者の初級段階から導入されているにも関わらず、上級にかけても誤用が目立っている。日本語の指示体系と中国語の指示体系の根本的な違いによって、中国人学習者が日本語指示詞の習得に困難な点があると考えられるが、具体的にどのような困難な点があるのか、なぜなのかはまだ完全に明らかにされていない。これまでは、異なった母語を持つ学習者言語の一般的な指示詞の習得過程における共通点を究明する研究が少なからず行われており、それによって、母語を問わずに学習者の間に共通に見られる指示詞の習得状況の特徴は多少分かるようになっているが、中国人学習者の指示詞における習得状況はまだ一部しか明らかにされていない。中国人学習者を対象に、より体系的にその指示詞「コ・ソ・ア」の習得全般を追求する研究の必要性を実感した。従って、中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」に関する習得実態を調べることによって、より体系的な特徴を見出し、問題点がどこにあるのかを検討したうえ、改善策を考えていきたいと思っている。 本論文は全部で5章によって構成されている。 第1章では、本研究に至る研究動機・目的を述べ、論文構成について説明を加えた。 第2章では、本研究と関連のある先行研究を踏まえ、残された課題を整理し、本研究における分析の枠組を導いた。 先行研究については、「日本語指示詞「コ・ソ・ア」に関する研究」と「指示詞の習得に関する研究」とに大別して概観した。「日本語指示詞「コ・ソ・ア」に関する研究」では、ダイクシスと照応を統合した観点から、指示詞「コ・ソ・ア」の用法を整理し直した。また、日中指示詞の対照研究を踏まえたうえで、両者の基本的な対応関係を提示した。「指示詞の習得に関する研究」では、ダイクシスと照応を統合した観点に基づいた第一言語としての指示詞「コ・ソ・ア」の発達研究を中心に概観し、明らかとなった発達の道筋を説明した。また、第二言語(外国語)としての指示詞「コ・ソ・ア」の習得研究を、「誤用分析を中心とした研究」、「中間言語研究」という流れに沿ってまとめ、その成果を評価しつつ、問題点を指摘し、本研究の必要性を主張した。最後に、先行研究の分析の枠組を踏まえたうえ、本研究における分析の枠組を提示した。 第3章では、研究内容を詳細に述べることが中心であり、具体的な調査の手続き、データ化の仕方、分析手法の説明を加えた。 本研究の分析材料となったのは、日本語母語話者63名及び中国人学習者104名の回答用紙であり、日本語母語話者の指示詞「コ・ソ・ア」の使い分けに揺れがない部分についてのみ検討を行うことにした。また、研究課題ごとに、統計処理をしたうえで、分析を進めることにした。 本研究の研究課題については、次の4つの側面に分けて提示し、その結果を求めた。 1. 指示詞「コ・ソ・ア」の使い分け傾向 2. 指示詞「コ・ソ・ア」の難易度 3. 指示詞「コ・ソ・ア」の習得状況に影響を及ぼす要因 4. 母語の指示詞と日本語指示詞「コ・ソ・ア」の対応 第4章では、研究結果を踏まえた上で、研究課題ごとに検討し、考察を加えた。 研究課題の4つの側面に分けて検討を行った結果、次のような示唆が得られた。 まず、指示詞「コ・ソ・ア」の使い分け傾向について得られた示唆は次の3点である。(a)中国人学習者に「ソ」と「ア」の使い分けに戸惑いが見られ、結果として誤用に結びつきやすい。(b)化石化する誤用パターンが存在する可能性があり、誤用の原因にソ系の過剰般化が考えられる。(c)中国人学習者が独自の使い分けルールを用いていることが推測できる。 次に、指示詞「コ・ソ・ア」の難易度順序について得られた示唆は次の2点が挙げられる。(d)本研究で明らかにされた難易度順序を中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」における全体的な習得の道筋として考えるという仮説が設定できる。(e)純粋な照応用法のソ系、また間接状況的ダイクシス用法のア系において、特定の指示詞条件と結びつく難易度順序があることが確認され、指示詞における学習者の使い分けルールがある。 また、習得状況に影響を及ぼす要因について得られた示唆は次の2点である。(f)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって難しい項目である。(g)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得に影響を及ぼす要因として、日本語能力、日本語学習歴のほかに、ストラテジーの使用も挙げられる。 最後に、中国語指示詞との対応について得られた示唆は次の4点が挙げられる。(h)中国人学習者の使い分けルールには、日本語能力を問わず、母語の中国語に関わるものと関わらないものがある。(i)純粋な照応用法のソ系においては、中国語の指示詞の使用原則に関わらない使い分けルールがある。(j)間接状況的ダイクシス用法のア系においては、中国語の指示詞と対応しながら使い分けるというルールがある。(k)中国人学習者の使い分けルールには、日本語母語話者と一致するものもあるが、独自に作ったものもある。 第5章では、本研究における分析結果を総括し、(a)〜(k)の示唆をまとめ、全体的に明らかとなった知見を次のように提示した。 (1)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって習得しにくい文法項目であり、習得に困難な点がある。 (2)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得順序に結びつく難易度順序がある。 (3)中国人学習者の使い分けルールとして、母語の中国語に関わるルールと関わらないルールがあり、そのいずれにおいても、日本語母語話者と一致するルールもあれば、独自に作ったルールもある。 また、本研究の成果に基づき、次の3点を挙げて日本語教育への示唆を試みた。1)指示詞「コ・ソ・ア」を取り巻くコンテクストの存在を常に意識させ、その状況を読み取るように指導することが重要であること、2)「純粋な照応用法のソ系」における先行詞条件や、「間接状況的ダイクシス用法のア系」における「聞き手の存在の有無」という条件などを提示する必要があること、3)指示詞の導入とともに、ストラテジーの提示が有効であること。

修論発表会要旨

【研究動機・目的】 日本語指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者の初級段階から導入されているにも関わらず、上級にかけても誤用が目立っている。これまでは、異なった母語を持つ学習者言語の指示詞の習得過程における共通点を究明する研究によって、学習者の間に共通に見られる指示詞の習得状況の特徴は多少分かってきているが、中国人学習者の指示詞の習得状況はまだ一部しか明らかにされていない。中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得における体系的な特徴を見出し、問題点を検討した上、改善策を考えていきたい。 【研究内容・結果】 分析材料となったのは、日本語母語話者63名及び中国人学習者104名の回答用紙であり、日本語母語話者の使い分けに揺れがない部分についてのみ検討を行うことにした。本研究は、ダイクシスと照応を統合した観点から、中国人学習者の習得状況を、日本語母語話者の指示詞の使い分け状況に照らし合わせながら、@指示詞「コ・ソ・ア」の使い分け傾向、A指示詞「コ・ソ・ア」の難易度順序、B指示詞「コ・ソ・ア」の習得に影響を及ぼす要因、C中国語指示詞との対応、という4つの側面に分けて、統計処理を行った上で分析を試みた。その結果から得られた示唆は次のようにまとめられる。 @について(a)中国人学習者に「ソ」と「ア」の使い分けに戸惑いが見られ、結果として誤用に結びつきやすい。(b)化石化する誤用パターンが存在する可能性があり、誤用の原因にソ系の過剰般化が考えられる。(c)中国人学習者が独自の使い分けルールを用いていることが推測できる。 Aについて(d)本研究で明らかにされた難易度順序を中国人学習者の全体的な習得の道筋として考えるという仮説が設定できる。(e)純粋な照応用法のソ系、また間接状況的ダイクシス用法のア系において、特定の指示詞条件と結びつく難易度順序、指示詞における学習者の使い分けルールがあるということが確認された。 Bについて(f)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって習得しにくい項目である。(g)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得に影響を及ぼす要因として、日本語能力、日本語学習歴のほかに、ストラテジーも挙げられる。 Cについて(h)中国人学習者の使い分けルールには、日本語能力を問わず、母語の中国語に関わるものと関わらないものがある。(i)純粋な照応用法のソ系においては、中国語の指示詞の使用原則に関わらない使い分けルールがある。(j)間接状況的ダイクシス用法のア系においては、中国語の指示詞と対応しながら使い分けるというルールがある。(k)中国人学習者の使い分けルールには、日本語母語話者と一致するものもあるが、独自に作られたものもある。 本研究から得られた知見は次の3点である。(1)指示詞「コ・ソ・ア」は中国人学習者にとって習得しにくい文法項目であり、習得に困難な点がある。(2)中国人学習者の指示詞「コ・ソ・ア」の習得順序に結びつく難易度順序がある。(3)中国人学習者の使い分けルールとして、母語の中国語に関わるルールと関わらないルールがあり、そのいずれにおいても、日本語母語話者と一致するルールもあれば、独自に作られたルールもある。【日本語教育への示唆】 本研究の成果に基づき、次の3点を挙げて日本語教育への示唆を試みた。1)指示詞「コ・ソ・ア」を取り巻くコンテクストの存在を常に意識させ、その状況を読み取るように指導することが重要である。2)「純粋な照応用法のソ系」における先行詞条件や、「間接状況的ダイクシス用法のア系」における「聞き手の存在の有無」という条件などを提示する必要がある。3)指示詞の導入とともに、ストラテジーの提示が有効である。 【主な参考文献】 ・迫田久美子等共著(2001)『日本語学習者の文法習得』大修館書店 ・田中望(1981)「「コソア」をめぐる諸問題」『日本語の指示詞』〈日本語教育指導参考書8〉 p.1-50国立国語研究所 ・森塚千絵(2002)「日本語指示詞の習得に関する事例研究−自然習得から教室学習へ移行したロシア語母語話者を対象に−」『第二言語としての日本語の自然習得の可能性と限界』平成12〜13年度科学研究費補助金萌芽的研究研究成果報告書(課題番号1287043)代表者長友和彦 p.115-129

 

氏名

パーチャリー・チンプラサートスック

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

タイ人と日本人との間のビジネス・コミュニケーションの問題に関する研究 −日本人駐在者とタイ人管理職を中心に−

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

袴田 久美子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

ある外国人児童の日本語におけるストラテジー使用の実態−外国人児童に関わる全ての人たちへ−

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

林 紀子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日本語のストーリーテリングの分析 −日本語母語話者の「語り」とは?−

要旨

(300字以内)

日常生活でよく使われる言語活動であるストーリーテリングについて、日本語母語話者のストーリーテリングにはどのようなタイプがあるのかを調査した。「日本語話し言葉コーパス」から抽出したストーリーテリングをラボビアンモデルを参考にAbstract、Orientation、Complication、Evaluation、Regulating Section(筆者が設定)、Codaの六要素に分けて分析した。結果、ストーリーテリングはまずComplicationの多い高展開型とComplicationの少ない低展開型に分類された。高展開型はさらにEvaluationを特に多く持つ評価型とそれ以外の記述型、低展開型はOrientationの割合の高い場面型とEvaluation・Orientationの割合が同程度の周辺情報型に分類された。高展開型・低展開型およびその下位分類の記述型・評価型・場面型・周辺情報型の4種類のストーリーテリングの分類には、ストーリーテリングで扱うトピックの日常・非日常性が関わっていることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

過去の自分の経験を語るいわゆるストーリーテリングは日常生活の中でよく行われている言語活動である(Eggins and Slade 1997)。通常ストーリーテリングは一人の話し手が会話のターンを持ち続けストーリーを展開するが、わかりやすく状況設定を行い、起こった出来事を過不足なく伝達するには技術が必要だと思われる。日本語母語話者はどのようなストーリーテリングを行っているのか、またストーリーテリングにはどのようなタイプがあるのかを調べれば日本語学習者の会話参加の際の参考にすることができると考えた。
 本研究ではストーリーテリング分析の観点としてLabov and Waletzky(1967)およびLabov(1972)による体験談を分析するためのモデル(ラボビアンモデル)を使用した。このモデルはストーリーテリングを「Abstract(ストーリーの概要)」「Orientation(ストーリーを理解するための状況設定)」「Complication(起こった一連の出来事)」「Evaluation(評価)」「Resolution(ストーリーの結末)」「Coda(ストーリーの締めくくり)」に分けるものだが、本研究では「Resolution」は特定しにくいので分類項目からはずし、ストーリーの流れを途中途中でまとめる節を「Regulating Section(とりまとめ)」として分類項目に付け加えた。また、分析する日本語母語話者のストーリーテリングは、国立国語研究所・通信総合研究所・東京工業大学が作成した『日本語話し言葉コーパス』2001年度モニター版の中から抽出した。
 ラボビアンモデルの各要素をどのぐらいの割合で持っているかによってストーリーテリングを分析したところ、ストーリーテリングはまず出来事の展開を表す「Complication」の割合の多少によって〈高展開型〉と〈低展開型〉の二種類に分類された。〈高展開型〉は「Complication」の割合が高いストーリーテリングで、中でも話し手の気持ちを表す「Evaluation」が多いものを特に〈評価型〉、それ以外のものを〈記述型〉とした。〈低展開型〉は〈高展開型〉とは逆に「Complication」の割合よりも他の要素が多くの割合を占めていたストーリーテリングで、中でも「Orientation」の割合が高いものを〈場面型〉、「Evaluation」「Orientation」が同程度の割合のものを〈周辺情報型〉とした。〈高展開型〉〈低展開型〉およびその下位分類である〈記述型〉〈評価型〉〈場面型〉〈周辺情報型〉の4種類のストーリーテリングの分類には、ストーリーテリングで扱うトピックの日常・非日常性が関わっていることが示唆された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

向山 陽子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

コミュニケーション重視の授業における明示的文法指導と暗示的文法指導の効果

要旨

(300字以内)

本研究はコミュニケーションの授業の中で連体修飾節を指導する場合、文法説明を一切行わず例文から帰納的にルールを学習させる暗示的文法指導と、それにまとめとして明示的文法説明を付け加えた明示的文法指導の効果に違いがあるか否かをFonFの先行研究の結果と照らし合わせて検証することを目的とする。
指導方法、日本語能力を要因とし、初級中国人学習者28人を対象に、正誤問題(直感的文法性判断、メタ言語的操作)、産出問題(語彙的・統語的連体修飾節)、理解問題を効果測定方法として、事前・直後・遅延(7週間後)の3回のテストを行い、2つの指導方法の効果を比較した。
その結果、効果測定に使用されたタスクによって違いはあるが、全般的に明示的指導の方が効果が大きいこと、2つの指導方法の効果の差が7週間後も持続しているかどうかはタスクによって異なること、日本語能力により2つの指導方法の効果が異なることが明らかになった。

要旨

(1000字以内)

意味重視の授業の中で、学習者の注意を意味から言語形式へ向けさせるFocus on Form (FonF)指導の効果に関する研究は海外では数多くなされている。第二言語教育研究と第二言語習得研究が統合されたFonF研究は、学習者の習得メカニズムや言語運用の仕組みを解明する可能性があるとされているが、現在のところ第二言語としての日本語を対象とした研究は行われていない。本研究は文法説明を一切行わず提示した例文から帰納的にルールを学習させる暗示的文法指導と、それにまとめとして明示的文法説明を付け加えた明示的文法指導の効果に違いがあるか否かをFonFの先行研究の結果と照らし合わせて検証することを目的とする。研究課題は以下の4つである。
(1) コミュニケーション重視の授業において連体修飾節を指導する場合、明示的文法指導と暗示的文法指導ではどちらの方が効果があるか。
(2) 明示的文法指導と暗示的文法指導の効果は測定に使用されたタスクによって異なるか。
(3) 明示的文法指導と暗示的文法指導の効果に違いがあるとしたら、その違いは7週間後にも観察されるか。
(4) 明示的文法指導と暗示的文法指導の効果は被験者の日本語能力によって異なるか。
指導方法・日本語能力を要因とし、初級中国人学習者28人を対象に、連体修飾節を目標言語形式として実験を行った。正誤問題(直感的文法性判断・メタ言語的操作)、産出問題(語彙的・統語的連体修飾節)、理解問題を用いて、事前・直後・遅延の3回のテストで2つの指導方法の効果を測定、比較した。その結果、効果測定に使用されたタスクによって違いはあるが、全般的に明示的指導の方が効果が大きいこと、2つの指導方法の効果の差が7週間後も持続しているかどうかはタスクによって異なること、日本語能力により2つの指導方法の効果が異なることが明らかになった。
 これらの結果から、本研究の暗示的文法指導は、測定した学習者の能力すべてには明示的文法指導と同等のインパクトを与えることができないことが示された。また、効果の持続という点では明示的文法指導も1回だけでは十分ではない可能性があり、連体修飾節のような難しいルールは繰り返し指導する必要があることが示唆された。さらに、学習者に帰納的学習を要求する暗示的指導は日本語能力が高い学習者には十分な効果を与えるが、能力が低い学習者にはそれだけでは不十分であること、そしてメタ言語による指導はその不十分な点を補う効果があることが示された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

本林 響子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日英バイリンガル中学生の文章産出に関する考察

要旨

(300字以内)

本研究では海外帰国生を対象とし(1)彼らの作文において、二言語で相互依存関係にある項目を探る (2)彼らの二言語での文章産出の特徴を記述する を研究課題とした。
(1)に関しては、量的分析より「文の複雑さ」と「誤用率」について相関が見られ、特に「文の複雑さ」については、文使用の考え方が二言語間で共有されているのではないかという示唆が得られた。また、質的分析からは、作文の推敲能力が二言語を通じて発揮される可能性が示唆された。
(2)については、作文に書かれる情報が両言語で必ずしも一致しないことが分かった。また、二言語の能力に差がある生徒に関しては、作文の水準を下げるストラテジーを用いる様子が観察された。

要旨

(1000字以内)

本研究の目的は、バイリンガル中学生の作文における二言語の関係および作文の特徴を分析することである。特に、これまでバイリンガル年少者の二言語に関する研究は会話能力や文章読解能力に関するものが主であり、文章産出能力に関するものはさほど多くないことから、「書く力」において二つの言語がどのように関連しているのかを、作文プロダクトの面から探った。
本研究では、海外生活を通じて日本語と英語を習得している帰国生を対象とし、
(1) 彼らの作文において、二言語で相互依存関係にあるのはどのような項目かを明らかにする
(2) 彼らの二言語での文章産出の特徴はどのようなものかを記述する
の二点を研究課題とした。
作文データの収集は2002年7月に、中学校の国語の補習時間を利用して行った。一日目は日本語から英語の順に、二日目は英語から日本語の順に作文を書いてもらった。
研究課題1については、両言語での作文を「産出量」「語彙の多様性」「文の複雑さ」「誤用率」「作文全体の評価」の5つの項目において数値化したものを用い、量的分析を行った。先行研究に倣い、それぞれについて日本語と英語作文での相関関係をみることで、両言語において相互依存関係にある項目を明らかにすることを試みた。研究課題2については、対象者の日本語作文と英語作文を対照し、(1)全体構成  (2)触れられている情報  (3)情報の提出順序 の3つの観点から、各対象者の作文について記述した。
研究課題1に関しては、量的分析より「文の複雑さ」と「誤用率」について相互依存関係にあるのではないかという結果が得られ、とくに「文の複雑さ」については、文の使用に関する考え方やビリーフスが、二言語の間で共有されているのではないかという示唆が得られた。また、質的分析からは、二言語の能力が比較的バランスよく高い生徒に関しては、使用言語にかかわらず、作文の推敲能力が二言語を通じて発揮されるのではないかという示唆が得られた。
 研究課題2については、各対象者のそれぞれについて、全体的な構成は二言語で類似しているものの、作文中で触れられる情報については必ずしも二言語で一致せず、「一方にしかない情報」「提出順序が二言語で異なる情報」があることが分かった。
また、二言語の間に差がある生徒に関しては、先行研究でもみられた「作文の水準を下げるストラテジー」を用いて作文を完成させている様子が観察された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

【研究動機・目的】
バイリンガル年少者の作文において、二つの言語がどのように関連しているのかを明らかにした研究はさほど多くない。そこで本研究では、海外生活を通じて日本語と英語を習得している中学生を対象とし、彼らの作文における二言語の関係および作文の特徴を、作文プロダクトの面から探ることを試みた。具体的な研究課題は、以下の二点である。
(1)彼らの文章産出能力において、二言語で共有されているのはどのような側面かを考察する
(2)彼らの二言語での文章産出の特徴はどのようなものかを記述する
【研究方法】
 研究課題(1)については、両言語での作文を「産出量」「語彙の多様性」「文の複雑さ」「誤用率」「作文全体の評価」の5つの項目において数値化したものを用い、量的分析を行った。先行研究に倣い、それぞれについて日本語と英語作文の間の相関関係を見ることで、両言語において共有されている項目を明らかにすることを試みた。また、研究課題(2)については、各対象者の日本語作文と英語作文を「全体構成」「触れられている情報」「情報の提出順序」の3つの観点から対照、記述した。
【分析結果】
研究課題(1)に関しては、量的分析より「文の複雑さ」と「誤用率」について相関があるという結果が得られ、とくに「文の複雑さ」については、文の使用に関する考え方やビリーフスが、二言語の間で共有されているのではないかという示唆が得られた。また、質的分析からは、二言語の能力が比較的バランスよく高い生徒に関しては、使用言語にかかわらず、作文の推敲能力が二言語を通じて発揮されるのではないかという示唆が得られた。
研究課題(2)については、各対象者のそれぞれについて、全体的な構成は二言語で類似しているものの、作文中で触れられる情報については必ずしも二言語で一致せず、「一方にしかない情報」「提出順序が二言語で異なる情報」があることが分かった。また、二言語の間に差がある生徒に関しては、先行研究でもみられた「作文の水準を下げるストラテジー」を用いることで作文を完成させている様子が観察された。
【主要参考文献】
・Cumming, A. 1989 ヤ Writing expertise and second language proficiencyユ Language Learning, 39 81-141
・Cummins, J. 1991 ‘ Interdependence of first and second language proficiency in bilingual children.’ In E. Bialystok(Ed.), Language processing in bilingual children. Cambridge: Cambridge University Press. 70-89
・Edelsky, C. 1982 ‘Writing in a bilingual program : The relation of L1 and L2 texts.’ TESOL Quarterly, 16 211-228
・生田裕子 2002 「ブラジル人中学生の第1言語能力と第2言語能力の関係―作文のタスクを通して―」 『世界の日本語教育』12 63-77

 

氏名

尹 喜貞

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

韓国人日本語学習者の授受動詞に関する実験的研究

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

吉澤 真由美

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日本語学習者のリーディングにおける付随的語彙学習 −中国語母語話者を対象にInvolvement Load仮説を検証する−

要旨

(300字以内)

本研究は、日本語では、まだほとんど研究が進んでいない付随的語彙学習(incidental vocabulary learning)について明らかにすることを目的に調査を行った。具体的には中国語が母語の学習者約60名に1)辞書使用群2)グロス群3)コントロール群に分かれて内容理解を目的にリーディングを行ってもらった後、語彙テストを実施した。そして、どの条件でより付随的語彙学習が進んでいるのかをInvolvement Load仮説(Laufer&Hulstijn2001)に照らし合わせて解釈した。仮説ではInvolvementはneed(必要性)・search(検索)・evaluation(評価)の3指標からなる。他の条件が全て同じ場合は、Involvementが大きい方がより大きい負担を語の処理にかけることになり、語の学習を促進するとされている。分析の結果、L2能力上位群ではInvolvementが大きい辞書使用語の方がグロス付加語よりも学習が促進される傾向が見られ、仮説が支持された。一方、下位群ではInvolvementの大きさが異なる辞書使用語とグロス付加語の学習には差が見られず、仮説は支持されなかった。

要旨

(1000字以内)

本論文では、これまであまり厳密に整理して考えてこられなかった語彙学習について1)学習者の意図の存在で区別する意図的(intentional)・偶発的(incidental)と2)テキストなどで決められた語を系統的に学ぶのか、それとも、内容理解を目的とした活動で付随的に学ぶのかで区別する系統的(systematic)・付随的(incidental)の異なる2つの枠組みで捉えられることを指摘した。その上で、本論文では、得られた成果を教育現場で応用することが目標であることから2)系統的・付随的の枠組みに従って語彙学習を捉えることにした。
系統的語彙学習に関しては第二言語(以下 L2)でも既に多くの研究が行われているが、付随的語彙学習は1990年代になって欧米語を中心にL2でも本格的に研究が行われるようになっている。そして、2000年に入って、理論的な枠組みで付随的語彙学習を捉えようとする“Involvement Load仮説”がLaufer& Hulstijn(2001)によって出されている。仮説では、Involvement(学習への関わりの程度)は、need(必要性)・search(検索)・evaluation(評価)の3指標からなり、他の条件が全て同じ場合はInvolvement総量の大きい方が、より大きい負担を語の処理にかけることになり、語の学習をより促進するとされている。
一方、日本語を対象にした付随的語彙学習の研究は、まだ、ほとんど進んでいない。ましてや、理論に基づいた実証研究は全く行われていない。そこで、本研究では、中国語が母語の日本語学習者約60名に辞書使用群・グロス群・コントロール群に分かれてリーディングをしてもらい、どの条件で付随的語彙学習がより促進されるのか調べた。
その結果、1)日本語でも辞書やグロスの外的支援がほとんどの条件で付随的語彙学習を促進させること。しかし、2)日本語能力が低い(以下、下位群)学習者は、辞書が与えられても意味の特定に失敗し学習が促進されない可能性があること 3)グロスは下位群の学習を上位群と同程度に向上させる可能性があることなどが明らかになった。更に、付随的語彙学習の分析結果をInvolvement Load仮説に照らし合わせて解釈したところ1)上位群ではInvolvement 総量の大きい辞書使用語の方がグロスをつけた語(以下 グロス付加語)よりも学びが促進される傾向があったのに対し2)下位群ではInvolvement総量に差があるのにも関わらず、辞書使用語とグロス付加語の学習には差が出なかった。つまり、上位群では仮説を支持したが、下位群では仮説を支持しなかった。この結果からInvolvement Loadだけで付随的語彙学習の促進を説明することには限界がある可能性が示唆された。今後、Involvement Load仮説を、より包括的に語彙学習を捉えられるものに発展させるためには、本研究で指摘したL2能力を含め他にどのような要因が学習の促進に影響を与えるのか実証研究を積み重ねて明らかにしていく必要があると指摘できる。
【参考文献】
Knight, S. (1994) Dictionary use while reading:The effects on comprehension and vocabulary acquisition for students of different verbal abilities. The Modern Language Journal,78,285-299.
Laufer, B. (1997b) What's in a word that makes it hard or easy:some intralexical factors that affect the learning of words. In: Schmitt,N.& McCarthy,M.(eds), Vocabular:description,acquisition and pedagogy. Cambridge :Cambridge University Press,140-155.
Laufer,B. (2000) Instructed vocabulary learning:The hypothesis of involvement. Keynote address at AILA Congress,Tokyo.
Laufer,B. & Hulstijn, J. (2001) Incidental vocabulary acquisition in a second language:The construct of task-induced involvement. Applied Linguistics,22,1-26.
Meara, P. (1980) Vocabulary acquisition: A neglected aspect of language learning. Language Teaching & Linguistics: Abstracts,13,221-246.
Read,J. (2000) Assessing Vocabulary. Cambridge : Cambridge University Press.
Watanabe, Y. (1997) Input,intake,and retention: Effects of increased processing on incidental learning of foreign language vocabulary. Studies in Second Language Acquisition,19,287-307.
谷内美智子 (2002) 「第二言語としての語彙習得研究の概観」日本言語文化学研究会編『言語文化と日本語教育 2002年5月増刊特集号』155-169.

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 

氏名

六原 由依子

修了年度

2002年度(2003年1月提出)

修士論文題目

日本語の教室における参加者間の相互行為の分析 −スピーチレベルシフト、話題の導入と展開の観点から−

要旨

(300字以内)

 

要旨

(1000字以内)

 

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 


最終更新日 2003年03月31日