文献リスト

 

最終更新日 2001年10月17日

 

 

ティーチャートーク

訂正行動

 
 
 

 

 

<主にティーチャートークに関する文献>

Chaudron, Craig.(1988) "Second language classrooms: research on teaching and learning." Cambridge University Press.           

第3章 Teacher talk in second language classroom  (第2言語の)教室での発話のうち約3分の2は教師によるものである。教室内での談話は "structuring", "soliciting", "reacting", "responding"などの機能に分類され、使用者(教師か学習者か)やその使用割合などについて研究されている。しかし、教師、プログラムの違いによっても大きな差がある事が分かっている。また、ティーチャートークにおいて以下のような修正が行われていることが、多くの研究から分かった。@ゆっくりとした速度で話す。Aポーズを頻繁に、そして長く取る。B発音を強調したり単純化する。C基本的な語彙を用いる。D従属節を少なくする。E疑問文より平叙文を多く用いる。F自分の発話をよく繰り返す。

加藤好崇(1999)「問題解決行動としてのティーチャー・トーク――心理言語学的観点からの分析――」 『東海大学紀要留学生教育センター』19号、pp.27-36

教師が学習者の問題を特定し、いつ、どのようなティーチャートークを用いるかを決定するプロセスを、Leveltの言語産出モデルを用いて考察している。学習者の問題には、「言語理解」の段階、「言語産出」の段階、そして「処理時間」に関わる、大きく3つのタイプがある。教師は学習者の問題がどのタイプなのかを判断し、さらに各タイプのどんな内容(語彙、音韻、文法など)の問題かを特定した上で、どのような修正を加えたティーチャートークを用いるか決定していると思われる。そして、問題が表面化する前に用いる(「事前調整」)のか、もしくは表面化した後で用いる(「事後調整」)のかをも決定している。このプロセスを踏まえ、それぞれの場合に対応するティーチャートークの分類が試みられている。

西原鈴子(1999) 「日本語母語話者とのコミュニケーション――日本語教師の話はなぜ通じるのか――」 『日本語学』vol.18 6月号、pp.62-69

先行研究と実際の日本語教育の教室での観察から、ティーチャートークが一般の人々の発話よりも学習者に通じやすい理由を分析している。そして、それらのティーチャートークの特徴を、教室場面以外の接触場面にも用いられる一般的な日本語の運用として取り入れてゆくことを提案している。

岡崎敏雄(1990) 「日本語教育のティーチャートーク」 『広島大学日本語教育学科紀要』創刊号、pp.9-17

「自己研修型教師」の追求のための出発点として、無意識のうちに行われているティーチャートークを自己点検しその質的向上を図る方法を探るため、ティーチャートーク研究(標題に「日本語教育の」とあるが、特に日本語教育のティーチャートークについての研究に言及しているわけではない)の現段階が整理されている。まず、ティーチャートーク研究の前提として、「インプット」の役割に関する見方の推移、またティーチャートークの範囲や研究の枠組みを概観している。次に、主要な研究の成果を大きく3つ(ティーチャートークの量及びタイプにおける特徴の研究・ティーチャートークの修正のあり方の研究・ティーチャートークの結果得られるインプットと学習者の理解および産出の結果の関係の研究)に分類し、順を追ってまとめている。

岡崎敏雄・長友和彦(1991) 「日本語教育におけるティーチャートーク――ティーチャートークの質的向上に向けて――」 『広島大学教育学部紀要』第2部 第39号、pp.241-248

岡崎(1990、前出)で明らかにされたティーチャートーク研究の現段階を考慮し、現実のティーチャートークの質的向上を図るための具体的な視点が考察されている。はじめに、日本語教育の中でティーチャートークが持つ意義が3点述べられている。次に、それらの意義を充分実現できていない教育実習初期の段階のティーチャートークの特徴が指摘されている。そして、ティーチャートークを理解可能にするためにはどのような手段を取ればよいのか、具体的な方法を挙げている。最後に、さらにそれを発展させ、ティーチャートークを向上させるためのトレーニングのガイドラインを提示している。

坂本正・小塚操・架谷眞知子・児崎秋江・稲葉みどり・原田知恵子(1989) 「「日本語のフォリナー・トーク」に対する日本語学習者の反応」 『日本語教育』69号、pp.121-143

フォリナートーク(ここではティーチャートークもフォリナートークに含めている)と普通の話し方に対する学習者の反応を比較した、学習者側に視点を置いた研究。英語を母語とする留学生82名(初級22名、準中級35名、中級20名、準上級5名)が対象。日本語のフォリナートークの特徴から7つを選び、その特徴を有する問題文を作成し、同じ文を普通の話し方で話したものとペアにして録音して学生に聞かせた。そして、個々の調査文に対する好感度を5段階で選んでもらった。その結果、一般的に日本語能力が上がるにつれてフォリナートークに対する好感度が低くなることが分かった。

スクータリデス, A.(1981) 「外国人の日本語の実態(3)日本語におけるフォリナー・トーク」『日本語教育』45号、pp.53-62

日本語のフォリナートークに関する最初の研究。日本語にもフォリナートークが存在するか、存在するならばどのような特徴があるのか、を明らかにすることが目的。データはメルボルンの大学で日本語を学習する学生5名と、オーストラリアに駐在する会社員および婦人合わせて10名の日本人との間の会話(10組)から収集された。そのデータを分析した結果、日本語にもフォリナートークが確かに存在し、また、他 の多くの言語にも見られる普遍的な特徴と、おそらく日本語独自のものと思われる特徴があることが分かった。前者はこれまでの研究からも 明らかになった、ゆっくりとした速度、短い文、繰り返しなどである。後者は、@簡単な文法を用い、基底構造を変形せずにそのまま表現したため、重複の多い文になる。A非常に詳しい、少し丁寧すぎると思われる表現を用いる。B日本語では普通省略される一人称代名詞を多用する。という特徴であった。

志村明彦(1988) 「日本語のForeigner Talkと日本語教育」 『日本語教育』68号、pp.204-215

フォリナートークにおいて、インプットを理解可能なものにするための(1)言語学的修正、(2)相互交流的修正がどのように行われているかを明らかにすることを目的とした研究。対象者は日本語母語話者のみのペア4組と、日本語母語話者と日本語学習者のペア4組で、両者の会話を比較し、フォリナートークの特徴を分析した。その結果、言語学的修正は@量、質ともに単純化される。A文法的に誤った文や未完成の分が少ない。B日本語の基本文型(SOV)が多く使われる。C平叙文より疑問文が多い。D助詞が省略されない。相互交流的修正はEストラテジー・タクティクスなどの談話レベルの修正が量的に多い。という特徴が明らかになった。この結果より、第2言語習得の有害とされてきたフォリナートークの有益性が示唆された。

Tarone, Elaine.(1980) "Communication strategies, foreigner talk, and repair in interlanguage." Language Learning vol.30 No.2, pp.417-431.

コミュニケーション・ストラテジー、フォリナートーク、自己訂正の関係を整理した論文。言語に関するストラテジーは1)言語使用のストラテジーと2)言語学習のストラテジーに分類でき、1)はさらにコミュニケーション・ストラテジーとプロダクション・ストラテジーに分かれている。コミュニケーション・ストラテジーは、@話し手がXという意味を聞き手に伝えたいと思っている。A話し手は、Xを伝達するのに必要な言語学的あるいは社会言語学的構造を用いることができない、あるいは聞き手と共有できない。B話し手はa.「Xを伝えるのをやめる」b「.Xを伝えるために別の手段を取る」のどちらかを選択する。という3つの領域を全て満たすものであり、どれか1つでも欠ければコミュニケーション・ストラテジーとは呼ばない。フォリナートークは、これらのストラテジーのうち、コミュニケーション・ストラテジーとプロダクション・ストラテジー、つまり言語使用のストラテジーに関連している。一方自己訂正は、コミュニケーション・ストラテジーのうちBのbに関連している。

<主に訂正行動に関する文献>          

Chaudron, Craig.(1977) "A descriptive model of discourse in the corrective treatment of lerners'errors." Language Learning vol.27 No.1, pp.29-46.

教師の訂正行動における一連の談話の流れをモデル化し、誤用の取り扱い方の選択肢を網羅している。モデル化に際し、フレンチイマージョンの教室(Grade8、9)における3人の教師の談話を観察した。そして、Sinclair&Coulthard(1975)のムーブとアクトによる教室談話の記述システムと、Allwright(1975)によって提案された、誤用に対する教師の訂正反応(corrective reactions)を示した基本的なモデルを統合し、さらに発展させたモデルを提示している。このモデルにより、同一の誤用に対して何通りもの反応・訂正の仕方があることが示された。また、それぞれの訂正反応の効果についても考察されている。

加藤好崇(1997) 「日本語学習者の誤用に対する教師の非訂正行動」 『日本語教育』93号、pp.26-37

教師が学習者の誤用を訂正しない、非訂正行動が起こる条件を明らかにすることが目的。モナシュ大学日本語初級の4つのクラスを担当する、2人の日本人教師と2人のオーストラリア人教師が対象。4人の教師による同内容の別々の授業からデータが採集された。その結果、@発問のタイプA誤用の種類B教師の授業スタイルなどが非訂正行動に影響をおよぼすことが分かった:@referential questionの場合、学習者の誤用は内容が重視されるため留意されなかったり、否定的評価を受けなかったりし、非訂正が導かれることが多い。一方display questionの場合、反応の正確さが重視されるため、誤用は訂正されやすい。A動詞の活用のような、後半に現れる誤用は訂正されやすい。B教師の質問の仕方、語学教育における信念などが訂正行動の頻度に影響を及ぼす。

Lightbown, Pasty M. and Spada, Nina.(1990) "Focus-on-form and corrective feedback in communicative language teaching: Effects on second language learning."               Studies in Second Language Learning 12, pp.429-448.

コミュニカティブなL2教室で、form-focused instructionが文法的正確さを向上させるのにどの程度効果があるのか調査することが目的。10歳から12歳までの、フランス語を母語とするL2としての英語学習者約100名と教師4人が対象。教室を観察し、活動内容や教師によるform-focused instructionの割合などを分析した。また、生徒全員の発話データを取り、4つの文法項目について、正しく使用された割合をクラスごとに調査した。その結果、教師によるform-focused instructionが最も多かったクラスが、多くの項目において正確に使用した生徒の割合が高いという傾向が見られた。

Mackey, Alison., Gass, Susan, and McDonough, Kim.(2000) "How do learners perceive interactional feedback?"Studies in Second Language Learning 22, pp.471-497.

学習者はインターアクション上のフィードバックをどの程度認識しているのか、また、そのフィードバックが何についてのものなのかをどの程度認識しているのかを調査するのが目的。対象は、アメリカの大学で英語をL2として学習する10名と、イタリア語を外国語として学ぶ7名の計17名。被験者とインタビュアーが会話し、インタビュアーは適切だと思うところでフィードバックを行なった。その会話を録画したものを被験者に見せ、思ったことを自由に話してもらった。その結果、phonological、lexical、semantic feedbackに関しては比較的正しく認識していたが、morphosyntactic feedbackはほとんど認識しておらず、他の種類のフィードバックだと認識したか、あるいはフィードバックとして認識していなかったことが分かった。

宮崎里司(1989) 「接触場面における仲介訂正ネットワーク」 『日本語教育』71号、pp.171-181

日本人と外国人が同時に複数参加する接触場面において、仲介訂正がいかに行なわれているかを体系的に調べ、日本語教育への応用を提案することが目的。モナシュ大のオーストラリア人学生4名と、日本人学生2名、日本語教師2名が対象。オーストラリア人2名、日本人2名の組を6組作り、指定されたトピックについて会話してもらい、データとした。コミュニケーション行動の違反が起きたとき、どのように仲介訂正が行なわれるかを分析したところ、日本人(以下J)あるいは学習者(以下A)の質問をJまたはAが補助質問する場合、またJあるいはAの説明をJあるいはAが補助説明する場合に分類された。1対1の接触場面と異なり、訂正行動の分業や、複数のストラテジーの同時出現が見られた。実際の接触場面はこのような複数対複数であるのが普通であり、常に決まった人(教師)からしか訂正を受けないというのは極めて不自然である。そのため、語学アシスタントを有効に活用するなどの必要性が示唆される。

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