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山田 琴菜

2016年11月22日更新

中国語を母語とする日本語学習者の接触場面での依頼行動
―ディスコース・ポライトネス理論の観点からみた発話連鎖パターン―

山田 琴菜
修了年度 2015年度
修士論文題目 中国語を母語とする日本語学習者の接触場面での依頼行動
―ディスコース・ポライトネス理論の観点からみた発話連鎖パターン―
要旨
(1000字以内)

本研究は、談話レベルで言語行動を捉えた理論である宇佐美(2001ほか)のディスコース・ポライトネス理論(以下DP理論)を用い、DP理論の鍵概念の一つである「基本状態」に着目し、日本語母語話者(以下、JN)同士の依頼談話と中国語を母語とする日本語学習者(以下、CL)がJNとの接触場面で行う依頼談話について分析したものである。本研究では、JN同士20組、CLとJNの接触場面20組を対象としたロールプレイを行い、依頼談話の発話連鎖パターンを「基本状態」として取り上げた。「基本状態」を同定する目的は、どちらかに合わせるための基準を決めることではなく、あくまでも今後その「基本状態」からの「動き」を捉えることで、話し手と聞き手の双方の視点を組み込んだ分析を行うことにあり、今後の対人コミュニケーションに生かしていくための地盤づくりが「基本状態」の同定である。

ロールプレイ調査の結果、JN同士の依頼談話を構成する発話項目の発話連鎖パターンは、「注意喚起」→「前置き」→「事情説明」→「追加情報」+「補助行動発話」+「依頼発話」→「会話終了」となること、また、上級CLとJNの接触場面において、依頼談話を構成する発話項目の発話連鎖パターンは、「注意喚起」→「事情説明」→「依頼発話」→「追加情報」→「再確認」→「会話終了」となり、依頼談話を構成する発話項目の「基本状態」が、上級CLとJNで異なるということが確認できた。

JN、CLそれぞれの「基本状態」を明らかにしたことで、円滑なコミュニケーションのために想定している発話連鎖パターンに異なりがあるということへの気づきとなり、それぞれの文化が異なる「基本状態」を持っているという事実を再認識するための一助となることが期待できる。また同時に、JN、CLそれぞれの中での発話連鎖パターンにも多様性が確認できたことから、JNとCLの対立による議論だけではなく、今後はさらに広く日本語教育の枠を超えた人対人のコミュニケーションについての議論の可能性も示唆できる。

以上のことから、JNがJNへ行う依頼談話の発話連鎖パターンの傾向と、上級CLからJNへの傾向が確認でき、今後のミス・コミュニケーションの原因解明や解決方法発見のため基盤固めという本稿の目的は概ね達成された。

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