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美濃川 恵理

2016年11月29日更新

言語教育における批判的思考の指導への示唆
―留学生による読書会の議論のモデル化の試みとワラントに焦点を当てた分析から―

美濃川 恵理
修了年度 2015 年度
修士論文題目 言語教育における批判的思考の指導への示唆
―留学生による読書会の議論のモデル化の試みとワラントに焦点を当てた分析から―
要旨
(1000字以内)

21世紀社会においては、人々の国境を越えた交流が増えたことにより人々は多言語多文化環境の中で生活をしている。こうした社会では批判的思考が求められ、教育現場ではそれを伸ばす目的で議論の機会が設けられている。また、言語の違いに関わらず普遍的な議論の構造や構成要因、特に主張と根拠の結びつきを決定づける要素であるワラントの重要性が先行研究により示唆されたが、言語教育の分野においては議論の構造や構成要因に焦点を当てた研究や実践の蓄積が不十分である。よって、本研究は、留学生同士の議論から、多言語多文化環境で学習者の議論を深め相互理解を導く要因を明らかにすることを目的とした。そして、研究課題を3つに分け、①議論の深まりと議論の構造の特徴は何か、②議論の深まりとワラントの質の関係の特徴は何か、③ワラントに関わる議論が参加者の理解に与える影響は何かを明らかにしようとした。そのために、留学生を対象にした読書会を開催し、留学生同士の議論への参与観察を行った。ここから得られたデータについて先行研究に基づいて議論のモデル化を試み、加えてワラントに焦点を当てた質的な分析を行った。

その結果、研究課題1については議論の構造に深まりのある部分には主張と根拠の組み合わせが複数生じることや反論の矢印が主張と根拠を結ぶ線に向いているという特徴があることが明らかになった。よって、形式的な面を可視化することによりどのような議論がより有益な議論として機能するのかが明らかになるため,議論の傾向を調べたり共有したりするのにモデル化は有効であると考察された。さらに、研究課題2については議論におけるワラントが出現しにくいことや、ワラントが出現しにくい一方で主張と根拠の結びつきの妥当性を指摘するような疑問や反論が提示されたことが明らかになり、研究課題3についてはワラント周辺の議論を行うことに意義があることが明らかになった。これらから、ワラントの出現の有無よりも,むしろ主張と根拠の結びつきの妥当性に挑戦しながらワラントを探る過程が重要であるということが考察された。こうした議論の構造とワラントの分析により、批判的思考を導き議論を深めるために言語教師ができることとして、①適切な足がかりをすること、②適切な発問をすること、そして③疑問を持ち、隠された考えを明らかにしていこうとする姿勢を養えるような教室環境を整えることが求められると示唆を与えた。

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