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Reem Ahmed Aly Osman Hassan

2016年11月22日更新

日本語の主語の復元とその手がかり使用について
-アラビア語を母語とする日本語学習者を対象に-

Reem Ahmed Aly Osman Hassan
修了年度 2015年度
修士論文題目 日本語の主語の復元とその手がかり使用について
-アラビア語を母語とする日本語学習者を対象に-
要旨
(1000字以内)

西洋語(仏英語など)の母語話者は日本語が省略の多い言語であると感じるであろう。その考えられる理由の一つは「毎朝早く起きる」のような主語の省略された文を西洋語に翻訳する時に、主語が決まらなければ動詞の形が決まらない場合があるため、「主語」を補う必要があるからであると説明される(金谷,2002)。アラビア語も主語が定まっていなければ動詞の形が決まらないという性質を持っているため、屈折情報によって主語の復元ができる。日本語は主語を復元するための情報が屈折変化で現れなくても、言語上の様々な規則・制約によって主語の復元が可能となるが、日本語学習者にはそのような制約が分からない場合が多く、主語の復元が難しいことも複数の研究で報告されている。

よって、本研究では、屈折変化により主語復元が可能であるアラビア語が母語の日本語学習者が、屈折変化が主語を復元するための手がかりにならない日本語の文章の主語復元に際し、手がかりを習得できているかを調査し、またその使用と復元の成否との関わりを明らかにすることを目的とした。アラビア語を母語とする日本語学習者14名を対象に多肢選択テストを実施し、主語が明示化されていない日本語の文章において主語を特定するように求めた。さらに、即時回想の一対一のインタビューで答えの理由を求め、回答と手がかり使用を分析した。

その結果、26%の使用率が測定され、全体的に使用率が低く、学習者は日本語の持つ手がかりを完全に習得しているはとは言えないことが分かった。また、それらの手がかりに気づくよりも、文意を求めたり、文脈に頼ったりする傾向があったが、そのようなストラテジーを用いて主語を復元しようとして復元に失敗する場合があることも分かった。

日本語には、使用すれば復元が成功する手がかりがあるが、学習者がそれとは別の手がかりを使用しているということは、その日本語が持つ手がかりへの気づきが低いこと、及び手がかりになる語の「使用に関する知識」(Nation,2013)が十分に習得されていないことを意味すると言えよう。よって、それらの手がかりが教育現場において意味・形式だけでなく、主語を復元するための手がかりとして十分に取り入られているか、取り入れていない場合はどのように取り入れるべきか、いかに手がかりに対する敏感性・気づきを高めることができるかを考慮する必要があると考える。

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