労働・人事班  家族班  法・政策班  発達心理班  ロールモデル班

労働・人事班

の研究班は、労働を研究するグループでありながら、「女性」や「家庭・家族」に強い光をあてつつ「仕事」を見る、という視点の置き方を特徴としたい。なぜ他の先進諸国と異なり、日本では依然として女性の結婚・出産離職が多いのかといえば、日本的雇用慣行が持つ、女性の将来の見通しの不確かさにあると見られる。しかし女性のキャリア形成の実態についての組織的な研究はこれまできわめて少なかった。研究の多くは男性についてである。本研究の目的の1つは日本の雇用社会における女性のキャリア形成のモデル化である。 フォーカス・グループ・インタビュー、ヒアリング、量的データ収集を行い、女性と男性の「家庭・家族」と「仕事」環境を明確にすることで政策提言につなげる。また、既存データの二次分析や国際比較研究をすることで、広い視点からの示唆も得たい。実践につなげるのが大きい目的であるから、企業人事担当者や労働組合との協業も目指している。(永瀬伸子)

家族班

族班は家族社会学、ジェンダー研究、社会心理学、統計学を専門とする研究者を中心に家族側の視点からワーク・ライフ・バランスに関する二次データ分析、ヒアリング調査、独自の量的調査、および日米比較調査を行う。具体的には、日本の男女のワーク・ライフ・バランスの実現を可能にする家庭要因を解明する目的として、家庭内男女役割分業、父親の育児・子育て・家事参加、子どもへの家庭教育などについての実証分析を行う予定である。また多様な育児支援が家庭内役割分業、家族関係、仕事と家庭の両立にどのような影響を与えているのか、仕事と生活の調和の夫婦関係や親子関係への影響、仕事と家庭間の「スピルオーバー」現象などについても解明していきたい。  二次データとして日本家族社会学会の「2003年全国家族調査」を分析し、育児・家事分担を規定する要因を探る。また家庭教育に関する国際比較調査の結果も参照する。育児支援に関する情報提供については日立家庭教育研究所の協力を得る予定である。ヒアリング調査では、母親・父親役割に注目して、ワーク・ライフ・バランスを可能にする家庭環境の詳細な内容を探っていきたい。独自の調査では家庭と仕事環境の両側面からワーク・ライフ・バランスが実現可能な要因分析を実施していく予定である。また、米国では家庭内の男女役割規範や仕事環境が日本と類似しているが、母親・父親が育児や家事を共同で行っている場合が日本より多いことがわかっているので、日米比較調査において家庭内役割分業の規定要因の相違点を明らかにしたい。更に、ワーク・ライフ・バランスが日本より進んでいる欧米諸国の研究者を招いて国際シンポジウムを開催する予定だが、その際に家族研究者からも日本のワーク・ライフ・バランスへの提言を仰ぎたいと考えている。 (石井クンツ昌子)

法・政策班

・政策班は、法律学、政治学、ジェンダー研究を専門とする研究者を中心にワーク・ライフ・バランスに関する法制度・政策分析研究を行う。5年間の研究のアウトプットとしては、政策提言と労働法改革モデル作成をめざしたい。具体的には、男性中心型、長期雇用型の労働法・社会政策から、男女平等で格差センシティブなワーク・ライフ・バランス型の社会政策や労働法モデルへの移行のため、実現可能な政策・法律のモデルを探る。 そのために、労働法の面では、従来の長期雇用男性型モデルに適合できない多様化された労働者モデルに沿った新たな労働法体系を考えていく。中でも労働力の再生産に注目した政策検討を進め、アンペイドワークの評価、長時間労働の問題、労働時間規制の問題、妊娠・出産・介護休暇制度、非正規労働の規制などの問題に取り組む。 政策の面では、まず、ワーク・ライフ・バランスが新しい国家政策となった経緯、政策としての流れとその理念を検討する。また、地域レベルでモデル的な自治体政策を検討することによって、地域社会に生活基盤をおく労働者の多様なニーズをサポートできる総合的政策のモデルを見出す。つまり、労働者のもつ多様な役割やアイデンティティ(母親でもあり、地域活動に参加する市民でもあるなど)に注目し、その一面にだけ対応する政策ではなくライフサイクルによって変わるニーズにあわせたより総合的な政策枠組みを考えていく。 法・政策班では、労働法専門家以外にも実務家として労働裁判に関わっている弁護士、組合活動家にも参加していただく。さらに、3年目にはフランスやイギリスなどヨーロッパのワーク・ライフ・バランス先進国の法制度研究も行う予定である。 (戒能民江、申琪榮)

発達心理班

達心理班は、発達心理学、発達精神病理学、パーソナリティ心理学、環境心理学を専門とする研究者を中心に、ワーク・ライフ・バランスが子育て家庭の家族機能やメンバーの心身の健康と発達にどう影響するかを既存データの二次分析によって明らかにし、これらを保障するバランスのとれた働き方の提言をおこなうことを目的として研究を行う。具体的には、乳児期から成人期の子どもを持つ家庭を対象とした複数の既存調査(大規模横断調査:『ベネッセ次世代育成研究所“妊娠出産子育て基本調査(妊娠期~2歳、2006年実施の横断的全国調査)”』、中規模縦断調査:『ベネッセ次世代育成研究所“妊娠出産子育て基本調査(妊娠期から2歳までの縦断調査、2006年~2009年実施)”』、『川崎縦断プロジェクト(妊娠期から23歳までの長期縦断調査、1984年~2008年実施)”』、『子どもに良い養育環境プロジェクト(0歳~小学校1年生までの縦断調査)』)について、両親の就労スタイルを中心軸とした二次分析を実施していく予定である。 分析の視点としては、家族のなかの成人メンバー(親と成人期に達した子ども、祖父母など)の働き方と家族機能に影響を及ぼし子どもを含めた家族メンバーの健康変数(身体的健康、精神的健康、それらを総合した生活の質に関する指標:Quality of Life: QOL)および発達変数(子どもの知的および社会性の発達、親子の社会的役割性の発達とパーソナリティの発達)との経時的な相互作用関係について分析をおこない、結果変数(身体的健康度、精神的健康度、発達の諸側面)ごとに、どのようなバランスのとり方が望ましい結果につながるかを考察していく。また、現実の家族が置かれた状況には大きなバラエティーがあることが予想され、社会的背景変数や家族関係変数などを含んだ実証的なデータからいくつかのクラスター(パターン)を切り出し、クラスター(パターン)ごとに同様な解析と考察をおこなうことによって、よりきめ細やかな提言をおこなっていきたいと考えている。 (菅原ますみ)

ロールモデル班

ールモデル研究班は、当面、ロールモデルの具体的な形態を明らかにすることで、本研究プロジェクトが中心的分析対象とする企業の雇用状況と家族の在り方に多様な実態があり、「働き方と生活の調和」をはかる可能性も多様であることを提示する。また、その可能性を実現するために、企業におけるロールモデルのみではなく、ジェンダー・格差センシティヴな政策を進めるための政策・政治に携わるロールモデル像も明らかにしていく。また、都市部と地方のロールモデル像の違いも比較検討する。このことは、日本社会のワークライフバランスにおけるニーズを捉えることにも成り得よう。今後の研究プロジェクトの遂行計画は、以下のようである。 第1に、ロールモデル概念の成立、発展を追うことのできる文献の調査を行う。第2に、日本における多様なロールモデルの検討について、まず、女性を中心にしながら、職種及び職位、地域の違いによるロールモデルの汎用性と差異を把握する。第3に、シングルの男性、父親である男性のロールモデルも取り上げ、「働き方と生活の調和」の認識の多様性と男女のロールモデルとの関係性を分析する。第4に、日本における都市部と地方、可能ならば、海外のロールモデルとの比較研究を行う。ロールモデルの違いは置かれている状況の違いを如実に表すので、どのような参照軸があるか、検討する。 (舘かおる)

English / Japanese

 

<お問い合わせ>

〒112-8610 文京区大塚2-1-1

お茶の水女子大学

WORK-FAM事務局


E-mail:workfam@cc.ocha.ac.jp