第一分科会では以下の3件の発表が行われました。
◆方頴琳(お茶の水女子大学大学院)「中国国内での接触場面における日本語学習者のコミュニケーション・ストラテジー―学習暦の違いに着目して―」:
中国国内での日本語学習者の学習暦の違いによるコミュニケーション・ストラテジーの特徴を解明することを目的として、以下の課題を設定した。@学習暦によってコミュニケーション・ストラテジーの使用頻度に差があるか、A学習暦によってコミュニケーション・ストラテジーの特徴が見られるか。コミュニケーション・ストラテジーを分類し、分析した結果、一、二年生と三年生の間のコミュニケーション・ストラテジー使用頻度に有意差があることが検証された。そして、談話上に現われた意味伝達問題の属性とコミュニケーション・ストラテジーの種類、使用頻度から学年全体と各学年のコミュニケーション・ストラテジー使用特徴を検討したところ、学年が上がるとともに語彙レベルの問題を解決するためのコミュニケーション・ストラテジーの多用から、文、コンテクストレベルの問題を解決するためのコミュニケーション・ストラテジー使用へと推移していく傾向が見られた。
会場からは以下のような質問があった。
・JSL環境とJFL環境の接触場面におけるコミュニケーション・ストラテジー使用が異なると述べたが、中国だからこその接触場面の特徴は何か→日本での接触場面においては、日本語レベルが上がることにつれてコミュニケーション・ストラテジーが多様化していくが、中国での接触場面においては、一、二、三年生が使用したコミュニケーション・ストラテジーはほぼ同じ種類である。
・ジェスチャーはどのように使われていたか。→一、二、三年生はほぼ同じ傾向。語彙が分からないときや、強調したいことがあるときに使っている。
・なぜ日本での接触場面に比べて中国での接触場面で多様なコミュニケーション・ストラテジーが使われているか→中国で日本人と接触するチャンスが少ないので、学習者は日本人と接するチャンスを非常に大切にして一生懸命コミュニケーションをとろうとしていると考える。
◆劉娜(お茶の水女子大学大学院)「中国人学習者のピア・レスポンスに対する意識―活動後の振返りシートから見た場合―」:
中国の日本語学習者の主体性を育成するために、日本語作文教育に新規の活動としてピア・レスポンスを導入することが考えられる。ピア・レスポンスを授業で応用する際の示唆を得るため、ピア・レスポンスを経験した中国人学習者はピア・レスポンス活動をどのように受け止めているかを課題とした。活動後の振返りシートの記述をカテゴリー化して、ピア・レスポンス活動の意義(T.自分自身の能力の向上、U.他者の存在による学び、V.情意面の満足感)と課題(T.日本語正確さに対する心配、U.活動デザインに関する問題点、V.日本語で自己表現することの難しさ)を見出した。
会場からは以下のような質問があった。
・主体性を重んじるために、ピア・レスポンスを導入したが、導入したピア・レスポンスは学習者の主体性の育成の面においてどんな成果があったか。→主体性は自律的に勉強できること、学習者同士間の相互作用を通して勉強を進めることだと思う。今回のデータから、学生たちは自ら質問したり、自分の考えを述べたりすることが見られたので、主体的に勉強しているといえる。
・グループを編成する時に、どんな工夫したか。→グループ編成している際に、日本語能力と人間関係が重要なので、今回はクラス長にグループを編成してもらった。
・中国でピア・レスポンスを実施する際に、難しい点は何か→学習者は正確さに対する心配がある、教師への依存心が強い。
・1週目のピア・レスポンスを導入した時に、「全体共有」のステップで何を共有したか→ピア活動でどんなことをしたか、どのような問題があったかという、ピア・レスポンスのやり方を共有した。
・学習者は、ピア・レスポンス活動は時間がかかるから、作文を書く回数が少なくなると答えていたが、いつものクラスではどうか。→従来のクラスでは、毎週1本の作文を書く。
・学習者は自分たちでエラーを直れないと言ったが、実際の産出はどうだったか。→教師添削群と比べて、ピア・レスポンスは劣ることはなく、仲間からのコメントが有効であった。しかし、学習者同士で確かに直せるところと直せないところがある。
楊峻(北京語言大学)