修士論文要旨


氏名

吉田 好美

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

日本人とインドネシア人の「断り」のコミュニケーションに関する研究
−「断り」発話と先行連鎖に着目して−

要旨

(300字以内)

 本研究では、日本人(以下JNS)とインドネシア人(以下INS)の母語場面における「断り」のコミュニケーションの特徴を明らかにするため、ロールプレイデータを用いて「断り」発話と「断り」発話に至るまでの言語行動(以下、先行連鎖)の2点に着目し分析を行った。「断り」発話については、まずJNSもINSもいきなり不可表現などの「直接的断り」を使用せずに、JNSは弁明などの「間接的断り」を、INSはためらいや驚きなどの「付随表現」を使用することで、直接性を軽減する傾向が見られた。またJNSは弁明などの「間接的断り」を単独使用するなど、言葉少なに簡潔に「断り」を伝達しようとするが、INSは「直接的断り」の前後に「付随表現」や「間接的断り」を組み合わせたり「付随表現」を連続使用したりして、様々な表現で具体的に「断り」を表現する傾向が見られた。先行連鎖については、INSの方がJNSより先行連鎖が多く、情報要求を多用する傾向があり、断る際の配慮として、相手になるべく期待を持たせずに手短に断るJNSと、情報要求をすることで、相手の働きかけに積極的に関わる態度を示してから断るINSの違いが見られた。

要旨

(1000字以内)

 日本とインドネシアの交流において起こりうる摩擦のひとつとして、「断り」に関するコミュニケーションの違いが挙げられる。原因としては「断り」表現が曖昧だ、或いは直接的だなどといったピンポイント的な言語形式の差違だけでなく、「断り」発話で使用される表現の出現パターンや、「断り」発話に至るまでの言語行動(以下、先行連鎖)の差違によって、互いに誤解が生じると考えられる。
 日本人とインドネシア人の「断り」発話の表現の出現パターンに関する研究は、談話完成テストを用いたものがあるが、自然会話により近いロールプレイデータを用いたものは管限の限り見当たらない。また先行連鎖についても、質的に記述しているものはあるが、量的に分析しているものはほとんどない。
 本研究は日本人とインドネシア人の母語場面における「断り」のコミュニケーションの特徴を明らかにすることを目的とし、「断り」発話と先行連鎖の2点に着目し分析を行った。
 データは、日本人女子学生(以下JNSとする)35組、インドネシア人女子学生(以下INSとする)35組、計70組の母語場面における二者間会話で、勧誘と依頼における断りのロールプレイデータ計140組を使用した。分析枠組には、先行研究で用いられている、「断り」発話を機能別に分類した意味公式を援用し修正したものを使用した。すなわち、不可表現など直接的に断りを伝える「直接的断り」、弁明・謝罪など間接的に断りを伝える「間接的断り」、驚き・ためらい・繰り返し・情報要求など断りとして機能しない「付随表現」の3つのカテゴリーに分類した。
 「断り」発話については、意味公式使用数、初出意味公式、意味公式の出現パターンの3つの観点から分析を試みた。まず意味公式使用数は、INSの方がJNSよりも多かった。次に初出意味公式は、JNSもINSもいきなり不可表現などの「直接的断り」を使用せずに、JNSは弁明などの「間接的断り」を、INSはためらいや驚きなどの「付随表現」を使用することで、直接性を軽減する傾向が見られた。更に出現パターンについては、JNSは弁明などの「間接的断り」を単独使用するなど、言葉少なに簡潔に「断り」を伝達しようとするが、INSは「直接的断り」の前後に「付随表現」や「間接的断り」を組み合わせたり「付随表現」を連続使用したりして、様々な表現で具体的に「断り」を表現する傾向が見られた。
 先行連鎖については、先行連鎖の有無と回数、使用される「付随表現」の意味公式の2つの観点から分析を試みた。まず先行連鎖のある会話データは、INSの方がJNSより多く、回数も少し多かった。また使用された意味公式では特に「情報要求」に差違が見られ、INSのほうがJNSよりも多用する傾向が見られた。以上のことから、断る際の配慮として、相手になるべく期待を持たせずに手短に間接的に断るJNSと、「情報要求」をすることで、相手の働きかけに積極的に関わる態度を示してから断るINSの違いが見られた。
 これらの結果から、両国間の円滑なコミュニケーションの実現には、双方の違いに対する理解を深める必要性が示唆された。

最終更新日 2008年3月○日