修士論文要旨


氏名

マトカム パウィトラー(MATKHAM PAWITRA)

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

日本語・タイ語の対照研究
−名詞修飾節構造上の相違点における使用とその機能−

要旨

(300字以内)

 本研究では、日本語とタイ語を対象に名詞修飾節の使用を調査した。全体の使用頻度に関しては、両言語ではほぼ同程度で名詞修飾節を用い、Collier-Sanuki (1993)で示された傾向が見られなかった。しかし、被修飾名詞のHumannessを分析した結果、被修飾名詞がHumanの場合はCollier-Sanuki (1993)と同様な傾向が見られる。日本語名詞修飾節の特徴は、Humanの被修飾名詞がほとんどの場合は主語で、談話に導入する際に、修飾節がgroundする役割をもつ。このような名詞修飾節は、ソムキャット(2002)で示された「非限定」用法の「眼前描写」と眼前描写と似た性質をもつ「提示的連体構文のBタイプ」の名詞修飾節であり、タイ語には存在しない。一方、被修飾名詞がNon-Humanの場合、両言語に異なった使用傾向がなく、修飾節の置かれる位置による違いが見られなかった。

要旨

(1000字以内)

 日本語名詞修飾節の構造は修飾節前置型であり、タイ語は対照的に、修飾節後置型である。日本語からタイ語に訳す際に、名詞修飾節の構造を保持して訳すことができないものがある。一方、タイ語から日本語に訳す際にも同様な現象が見られる。このように、両言語の語順の違いにより、名詞修飾節の使用と機能に影響を及ぼすことが考えられるが、どのように異なっているか統語的・機能的の相互関係はまだ明らかになっていない。
 Collier-Sanuki(1993)は、Fox and Thompson(1990)の情報の流れ(Information Flow)という談話分析方法を使用し、名詞修飾節の使用頻度と機能に及ぼす影響として日本語と英語の語順の違いはその要因だと指摘している。日本語は英語ではコミュニケーションに有効であるmain-clause groundingができないため、主節の主語と目的語の使用頻度に差異がなく、談話の中で修飾節が被修飾名詞をgroundすると指摘されている。しかし、名詞修飾節の使用・機能に影響する要因は被修飾名詞のHumannessにも影響を及ぼすことが指摘されており、Collier-Sanuki (1993)ではこの点については検討されない。これを踏まえた上で、本研究では、日本語とタイ語を対象に名詞修飾節の使用を統語的・機能的な面について調査を行なった。収集したデータはフランス語で書かれた「星の王子様」の日本語とタイ語の翻訳版を使用した。結果として、全体の使用頻度に関しては、両言語ではほぼ同程度で名詞修飾節を用い、Collier-Sanuki (1993)で示された傾向が見られなかった。しかし、被修飾名詞のHumannessを分析した結果、被修飾名詞がHumanの場合はCollier-Sanuki (1993)と同様な傾向が見られる。日本語名詞修飾節の特徴は、Humanの被修飾名詞がほとんどの場合は主語で、談話に導入する際に、修飾節がgroundする役割をもつ。このような名詞修飾節は、ソムキャット(2002)で示された「非限定」用法の「眼前描写」と眼前描写と似た性質をもつ「提示的連体構文のBタイプ」の名詞修飾節であり、タイ語には存在しない。一方、被修飾名詞がNon-Humanの場合、両言語に異なった使用傾向がなく、修飾節の置かれる位置による違いが見られなかった。さらに、タイ語名詞修飾節では、「典型的名詞修飾節」とともに、少ないながらも存在する、関係代名詞が省略された「短縮した名詞修飾節」が使用され、「限定」用法にしか現れないことが分かった。
 以上のことから、日本語とタイ語名詞修飾節の構造の違いによる使用と機能がほぼ同じ振る舞いをしているが、日本語では、Humannessの被修飾名詞に関しては談話に導入する際に、ほとんどの場合は主語で修飾節がgroundする役割をもつが、タイ語では用いられないことが分かった。

最終更新日 2008年3月○日